熊本・大分のためにいまできること

希望の情報を伝える 〜一歩を踏み出すための生活再建制度を知る〜

2016.11.30

被災するとはどういうことなのでしょうか。災害時には人的物的被害に注目が集まりますし、それは当然のことです。その一方で、私たちの当たり前の日常生活の繋がりが、災害時には悩みの種に変わってしまっていることにも気が付きます。

「家も、仕事も、失った。一体どこへ行って、何をすればいいのか」
「家も仕事も失い住宅ローンだけが残ったが支払うことができない、破産するしかないのか」
「光熱費、通信費、保険料、税金、様々な毎月の支払いはどうなるのか」
「通帳や証明書もないが、今後の生活はどうなるのか」
「大家さんから修理ができないのでアパートを退去してくれと言われているが行き場がない」
※上記事例は、過去の災害における日弁連の報告書などを参考に、あくまでモデルケースとしてご紹介しているものです。

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2016年4月に発生した熊本地震。そのリアルな被災者の声をイメージするだけで支援の幅は広がります。図は、日弁連が発表した、熊本地震直後から行われた弁護士による無料法律相談(2016年4月25日~7月24日の5179件の無料電話相談)の傾向です。賃貸借をめぐる当事者の紛争(5)、近隣住戸同士の損害賠償紛争(6)、住宅ローンの支払いに関する相談(9)、行政の公的支援を求める相談(12)が、突出して多いことがわかります。がれきの向こう側にこれだけの法に関するニーズが発生していることに驚かれることと思います。

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では、甚大な被害からどうやって再建への一歩を踏み出せばよいのでしょうか。被災された方に対しては、生活支援制度に関する「情報提供」と、自治体窓口や専門家への適切な「誘導」が大きな支援になります。情報は必ずしも避難所や自宅まで伝わってきません。窓口の紹介やパンフレットの提供ができるだけで、再建への糸口が見つかる場合があります。支援の現場でこそ伝えたい重要な情報があるのです。

まず大切なのが、『罹災証明書』です。家屋の被害程度を証明するもので、市(区)町村へ申請し、調査を経て発行されます。被災者生活再建支援金の申請、税金の減免、公共料金の減免、各種融資の申請、義援金の受け取り等に必要となる場合があります。被害程度は「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊(半壊未満)」などに区分されます。

金銭支援で特に重要なのは、『被災者生活再建支援金』です。住宅に大きな被害を受けた世帯に、基礎支援金と加算支援金の合計で最大300万円が支払われます。基礎支援金(原則100万円)は使途が自由で、災害直後の困難な時期には頼りになります。

自然災害で「個人」の住宅・事業・自動車・その他のローンが支払えなくなった場合に、一定の条件を満たすことで、『自然災害債務整理ガイドライン』(被災ローン減免制度)が利用できます。手元に一定の財産(現金・預金、義援金、支援金、弔慰金などの差押禁止財産、生活必需の自動車など)を残し、それ以外の財産で支払えない部分のローンが減免されます。信用情報(ブラックリスト)への登録はなく、連帯保証人へも原則請求されません。金融機関から契約者への積極的周知も不可欠です。少しでも多くの方に知って欲しい制度です。

賃貸借などの契約トラブルや近隣紛争が発生している場合は、弁護士会の『震災ADR』へ誘導していただければと思います。弁護士が仲介役となり、話し合いでの紛争解決を目指す制度です。

なお、これらの制度は熊本県弁護士会作成の「弁護士会ニュース(くま弁ニュース)」(№1~4)  にまとまっています。弁護士は、情報を必要な方に伝える担い手でもあります。熊本地震では全国から様々な立場の方、専門分野の方が支援に入られていることかと思います。支援の現場に行く際には、是非これらの情報に目を通していただき、支援者同士でもこれらの情報を共有していただければと思います。そのうえで、被災された方の悩みの声をキャッチできたなら、適切な窓口へ繋ぐ「コーディネーター」としての役割を果たしていただきたいと思います。

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このような支援の「知識の備え」を学ぶ機会は、今までほとんどありませんでした。私自身、東日本大震災後の相談データベース構築や内閣府の経験をもとに、漸く研修プログラムを構築したところです。「人」は、災害時にどのような困難を抱え、どのような支援を求めるのでしょうか。支援制度の「情報提供」によって生活再建の一歩を踏みだせる環境を作れるのではないでしょうか。企業や組織としても、平常時からの『人づくり』として、研修などで生活再建の知恵の習得を目指せないでしょうか。「被災」の姿をよりリアルにイメージでし、組織のBCP(事業継続計画)や危機管理マニュアルを「自分ごと」に考えられるように。そして、情報支援がより確実になるように。

【岡本正 プロフィール】
1979年生まれ。神奈川県鎌倉市出身。銀座パートナーズ法律事務所パートナー。2003年弁護士登録。マンション管理士、AFP、医療経営士、防災士、防災介助士など専門資格を活かし活動。2009年10月~2011年10月、内閣府上席政策調査員として国の行政改革・規制改革などにも従事。東日本大震災後の2011年4月~12月、日弁連災害本部室長を兼務し、4万件を超える被災者の無料法律相談データベースを構築。復興や生活再建にかかわる法改正に役立てる。2012年に『災害復興法学』の講座を創設し、中央大学客員教授や慶應義塾大学講師として教鞭を執る。組織の防災人材育成のため、「生活再建の知恵の備え」を学ぶ「自分ごと防災研修プログラム」を展開している。公益財団法人東日本大震災復興支援財団理事、東京都一時滞在施設開設アドバイザーなど公職多数。
弁護士 岡本正ホームページ 書籍「災害復興法学」慶應義塾大学出版会

【災害復興法学とは】
大災害後の被災者のニーズから、新制度の創設や法改正が実現したプロセスを記録し、公共政策上のノウハウとして伝承することを目的とした防災教育。東日本大震災後に岡本正氏によって提唱され、その取組は「危機管理デザイン賞」(2012年度)や「若者力大賞ユースリーダー支援賞」(2014年度)を受賞。読売新聞の「顔」や朝日新聞「ひと」等でも取り上げられている。2014年9月には、同氏の『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会)が出版され反響を呼んでいる。