取材班による現地レポート

FC今治の取り組み ~寄り添い続ける力と、スポーツを通じたボランティア~

2018.10.19

愛媛県今治市をホームタウンとするサッカークラブ「FC今治」。2014年にオーナーに就任した元日本代表監督の岡田武史氏(株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長)を中心に躍進を続けている。そのFC今治が、8月末、今回の7月豪雨災害の復興支援活動を行う「『YOU ARE NOT ALONE』プロジェクト」を立ち上げた。

プロジェクトの担当者である碇さんと、現地でボランティア活動を続ける木名瀬さんに、FC今治がこのプロジェクトにかける思いを聞いた。

「復興への歩み」を長期サポートするプロジェクト

今回の豪雨災害が起きてすぐ、7月9日の朝にはもう、FC今治のスタッフは西予市野村町に駆けつけていた。かつて東日本大震災を、あるいはそれ以前の阪神淡路大震災を経験し、その頃から各地でボランティア活動に携わってきた多くのメンバーの思いは強く、動きは早かった。

▲宇和島市吉田町で床下の泥出しボランティアをするスタッフ

数日後現地でボランティアセンターが立ち上がると、中型バスを手配し、事務方、コーチ陣、スタッフなど約20人が現地入り。ファンクラブ会員にも声をかけ、3日間でトータル約80人がボランティアとして現地へ出向いた。

▲宇和島市吉田町で支援活動を行う岡田武史氏

▲野村町へ出向いた監督、選手たち(続く2枚も)

徐々に明らかになり始めた愛媛県全体の情報を入手するうちに、自分たちのホームグラウンドである今治市も大変な状況にあるとわかり、すぐさまそちらへも向かった。

▲スタッフ、コーチ陣による今治市上浦町での泥出しボランティア

7月・8月と県内各地で人的ボランティアに注力した後、もっと長期的なスパンで「復興への歩み」をサポートしたいと考え、立ち上げたのが『YOU ARE NOT ALONE』プロジェクトだ。

現在は南予地区に仮設住宅が建つなど一旦生活基盤のめどが立ちつつある今、「この先どうしよう」「どうやって生きよう」という心情にある人も多いという。そんな中、現地で文字通り人々に「寄り添う」ボランティアを始めとし、FC今治は支援を続けている。

▲西予市宇和町でのレディースチームのボランティア

さまざまな方法で展開する支援活動

9月、西予市野村町及び宇和町の仮設住宅と宇和島市の吉田小学校で、サッカー日本代表戦専属シェフ西氏による通称「代表カレー」の炊き出しを行った。3会場で延約600食を提供したこの炊き出しは、東日本大震災で被災経験を持つ西氏自身から、「何か力になりたい」と岡田氏へ相談があったことから実現した。

▲宇和島市立吉田小学校での炊き出しの様子

▲西予市野村総合運動公園 仮設住宅での炊き出しの様子

10月に入った先日も、レディースチームが「できることをしたい」と申し出て、南予地方へ床泥はぎの作業へ向かった。

会社全体としても、県内被災地のサッカーチームをホームスタジアムへ招待したり、子供たちにサッカー教室を開催したりと、様々な支援イベントを企画実行している。

▲サッカー教室でボールを追いかける岡田氏と子供たち

またプロジェクトの活動費に充てるため、アーティストの日比野克彦氏(FC今治/(株)今治.夢スポーツのアドバザリボートメンバー)デザインによる『YOU ARE NOT ALONE』復興支援Tシャツの販売も行っている。

▲日比野克彦氏デザイン 『YOU ARE NOT ALONE』復興支援Tシャツ販売

Tシャツには全国から注文があるそうだ。(購入はこちらから

この取り組みには費用面だけではない意味がある。多くの人に伝わり、共感を得て、少なくともこのTシャツを見れば今回の被害のことを思い出してもらえる。全国へ発信し、人々に忘れられないようにすることも、大切な役割のひとつと捉えているのだ。

「頭のどこかに、長く今回のことを置いておいてもらいたい。FC今治が、そのきっかけになればと思うんです。」そう碇さんは話してくれた。

いつ、どんな支援が必要か

復興には長い時間がかかる。しかし、今、何が必要なのかは、一人ひとり異なる。「声をかけるタイミング、手を差し伸べるタイミングもすべて違います。それぞれが持つ『物語』が全く異なるからです」と、木名瀬さんは語る。災害発生当初いち早く現地へ赴き、以来ずっと支援活動を続けてきた木名瀬さんだからこそ強く実感することだ。

▲スタッフ、コーチ陣、ファンクラブ会員らによる西予市野村町でのボランティア活動

「何かしたい」「助けたい」ボランティアはみんな、そんな熱い気持ちを行動に移す。目の前にはたくさんの浸水した家や、倒壊した家がある。一見何も追いついていないように見える。人が足りないのではないか。呼びかけが少ないのではないか。気持ちが急くばかりだ。

しかし、その家の数、そこに住む人の数だけ、違った「物語」がある。心模様も傷の深さも、それぞれに異なる。そっと寄り添い、「物語」に耳を傾けながら、最適なタイミングをうかがう。

愛着のあった家が住めない状態になり、それを自らの手で解体しなければならない。この作業は大きな精神的苦痛を生む。非常なストレスを伴う。現地で寄り添うボランティアらが、「今」というタイミングを見計らい、声をかけ、やっと家の床をはがすことができる。そんな地道で繊細な努力を重ねながら、一歩ずつ復興へと進んでいるのだ。

「寄り添う」ということ

「現地が求めるニーズと、行う支援とのバランスが取れていることが大切です」と碇さん。ニーズを確かめながら、現場の負担にならないように、できることをできる範囲でやっていくことが肝要だという。

復興には1年、5年、10年、それ以上かかるのか、地域によって、あるいはその地の産業によって異なるのか。様々な要因も影響してくるだろう。

「周囲の人は長く忘れないでいることが大切。でも中にいる人は、いつまでも『特別なこと』にしておかないで、いかに『日常』に戻していくかが大切です。矛盾して聞こえるかもしれませんが」。過去多くの現場でボランティアをしてきた木名瀬さんはそう話す。「日常」を取り戻さなければならない。その努力をする当事者に、周りの人ができることは、「ずっと寄り添っていること」。そう言葉を添えてくれた。

「FC今治」だからできること

最初に現地へ赴いて行った、泥をかき出したり、床をはがしたり、道具を洗ったりする直接的な支援作業は、今後もタイミングを見て継続していく。そしてこれにプラスして、「FC今治」だからこそできることがある。

「スポーツを通じたボランティアスタイルは、私たちならではなのかもしれません」と碇さん。「FC今治」の役割を、次のように語ってくれた。

一つは、笑顔を生むこと。

お金や物資ももちろん必要だ。しかし、それだけでは人は、本当には生きられない。必要なのは、夢や希望だ。「子ども達の笑顔が、復興の希望になる」ということを、岡田氏は東日本大震災の経験から学んだ。

これがスポーツの力だ。

子どもたちがサッカーをして笑顔になって、それを見て大人たちも喜ぶ。プラスの連鎖を生むことができる。心からの笑顔には、想像を超える力があるのだ。

そしてもう一つは、「つなぐ」こと。

何か力になりたいけれど、どうすればいいかわからない。そんな人の中継地点に、「FC今治」は、なることができる。

例えば、被災地で必要なことと、力を貸すことができる人とを、つなぎあわせる。マンパワーもあれば、企業などから道具を貸し出してもらうなどという方法もある。実際に高圧洗浄機を企業から貸りられた事例もあった。

「私たちは『きっかけ』に過ぎません。中継地点、あるいは触媒として、関わる多くの人たちが地域のために何かができれば。そしてそれが継続することが、私たちの望みであり、できることです。」そう碇さんは力強く話してくれた。

▲9月2日のHonda FC戦のキックオフ前に行われた復興支援トークショー。被災地の現状や必要とされているサポートなどが熱く語られた。

『YOU ARE NOT ALONE』の意義

 

▲FC今治ホーム戦に招待した西予市野村地区と宇和島市吉田地区のサッカー少年たちと、トップチーム選手との集合写真

「被害にあった人も、手助けをしたいと願う人も、一人じゃない。『YOU ARE NOT ALONE』の意味が、ここにあります。」

碇さんの言葉に、明るい光が見えたように感じた。一人では不安なことも、誰かとつながればできる気がする。そんな誰かと、「FC今治」がつないでくれる。そう考えると、心を強く持てる。なんて素敵なことだろう。

「FC今治」は多くの募金を集めたり、現地で作業をしたりしてきた。そしてもう一歩踏み込んで、自分たちだけでなく、関わってくれる人たちも一緒になって、行動に移すことができるようになればと願っている。

「FC今治は、地域に支えられて成り立つクラブチームです。だから地域のために、できることを積極的にやっていきたいと思っています。」

今回の被害状況を実際に見て、何かしなければと突き動かされるようにプロジェクトを立ち上げた碇さんは、各地で訪れた家々を後にする際、気付けばいつも「ありがとうございました」という言葉を口にしていたという。「多くの大切なことを気付かせてくれたことに対して、自然に感謝の気持ちが溢れ出たのかもしれません。それもあって、この活動を続けているようにも思います。」その言葉に、私も改めて、自分ができることを続けていく決意をした。

▲碇さん(左)と木名瀬さん

碇 知也(いかり ともや)さん(写真左)
株式会社今治.夢スポーツ マーケティング事業部所属
主にFC今治の試合運営担当

木名瀬 裕(きなせ ひろし)さん/通称:がってん(写真右)
株式会社今治.夢スポーツ イノベーション事業部『しまなみ野外学校』所属
自然体験プログラムや青少年向けの長期冒険キャンプ、社会人向けの冒険教育をエディケーターとして企画・運営

 

取材・文章 矢野智子
写真提供 株式会社今治.夢スポーツ

一覧へ戻る