取材班による現地レポート

「同行避難」災害時に大切なペットを守るために【1】

2018.11.17

被災。その時動物たちは…

大きな自然災害が起きた時、動物たちのケアはどうしても人間より後回しになってしまう。第一に人の命、次に人の財産。動物たちのことにすぐに取り組むのは、現実問題として簡単ではない。

▲被災直後の西予市の様子。水に浸かり瓦礫と化した大量の家財道具などが集められている。(写真提供 愛媛県獣医師会)

今回の豪雨災害で、人家が土砂に押し流されたのと同じく、畜産の鶏舎、牛舎、豚舎なども被害に遭った。大きな水流が襲った地域では、家畜やペットたちも水に飲み込まれてしまった。不幸にも命を落とした動物の数は、おそらく少ないものではないだろう。

しかし助かった動物たちも、当初愛媛県下の避難所で姿を見ることは少なかったという。

(写真提供 愛媛県獣医師会)

生活を共にする動物たちも大切な家族の一員だ。彼らはどんな状況にあったのか、そして彼らを守るために何ができるのか。被災地へ出向き様々な支援を行ってきた愛媛県獣医師会の戒能(かいのう)常務理事にお話を伺った。

置いて行くしかなかった

愛媛県獣医師会では、災害時の動物救護活動に関する連携協定を締結している西予市へ獣医師たちを派遣した。

(写真提供 愛媛県獣医師会)

獣医師たちによると、大きなケガを負った動物たちは少なかったものの、ケガ以前に水流に巻き込まれて助からなかったり、外傷よりも精神的なダメージで治療を受けたりするケースが多かったという。

多くのペットたちは、飼い主が避難する際、家に残された。避難所で他の人たちに迷惑をかけてはいけないと考え、飼い主は止むを得ず大切なぺットを残して避難し、毎日ペットの世話をしに家に通ったそうだ。しかし、いつも飼い主に寄り添って生活している動物たちは、急にひとりぼっちになり、餌の時だけ飼い主が帰ってくるという環境に強いストレスを感じる。精神的に不安定になり、元気がなくなってしまう。

愛媛県獣医師会所属の動物病院は、災害直後から9月中旬まで被災動物の無料診療を行った。連れてこられた動物たちに多く見られたのが、このストレスに起因する不調だった。

人も動物も、非常事態では普段通りの精神状態を保つことが難しくなる。具体的な不調を言葉にして訴えることができない動物たちのことも思いやってあげたい。そんな時に専門家である獣医師たちが助けてくれれば心強い。経済的にも圧迫されている被災者にとって、無料診療は本当にありがたいことだった。今回の愛媛県獣医師会の活動は高く評価され、関係自治体などからも大変感謝されたそうだ。

市町との提携を急ぐ

(写真提供 愛媛県獣医師会)

西予市と愛媛県獣医師会は、被災動物救済活動に関する協定を結んでいたこともあり、今回の対応は迅速かつスムーズだった。家から避難所へ連れて行けなかったペットたちのために、動物用のケージやペットフードを被災直後に搬入することができた。

まだ県下の全市町とは協定締結ができていないため、愛媛県獣医師会では積極的に締結を進めており、例えば岡山理科大学獣医学部キャンパスがある今治市では、市と大学、獣医師会が三位一体となる連携協定を計画している。大学の最新鋭の設備や技術も取り入れた高度なサポートが期待できそうだ。

災害や非常事態というものは、実際にことが起きてみないと、その備えや対策の必要性に気付き難いという側面を持っている。大きな災害時、どうしても人命優先で動いてしまうのが現実で、動物のことにはすぐには手が回らない。しかしあらゆるケースを想定した事前の策として、動物のこともきちんと備えておくのは極めて大切なことだ。

国が提唱する「同行避難」

国では災害時にペットと一緒に避難する「同行避難」を提唱している。

東日本大震災などの際、避難所でペットに関するトラブルも発生したそうだ。環境省ではこれらの経験を踏まえ、災害時のペット対策をまとめたガイドラインを発表した。この中で、飼い主の役割として「同行避難」を掲げている。

▲10月に行われた「松山市総合防災訓練」の会場で、今回の豪雨災害や東日本大震災時の動物たちの被害状況を写真で展示。多くの人の関心を集めた

「人により近い存在として、行政が動物の存在価値を認めてくれたということ。新しい考え方です。お遍路さんの『同行二人』を連想するような言葉で、“一緒に”という優しい思いやりを感じます」と戒能氏も語る。

家族としてぺットを思う気持ちだけではなく、飼い主と離れ離れになったペットの健康悪化への懸念、野生化した動物の危害防止、繁殖による増加と公衆衛生悪化の防止など、多くの観点から大切なことだ。その意味でも、「同行避難」は飼い主の「役割」なのだ。「同行避難」の提唱には、国や自治体が、人だけでなく、ペットのための水や食料、ケージなどの備えも日頃から行っておくというベースも必要だろう。それぞれの自治体が避難所でのペットの受け入れ体制を準備しておくことも重要だ。

戒能氏は「災害は多数の地域で同時に発生します。すべてに行き渡る備えを本会だけで行うには限界があることを、今回の経験から痛感しました」という。誰か一人だけが全てを担うのではなく、自治体、協力できる団体、飼い主、みんながそれぞれ備えておいて、いざという時には力を合わせて動物たちも守れる環境を作らなければならない。

飼い主が行うペットの災害対策

飼い主がぺットに対して日常から行っておきたい災害対策についても話を聞いた。

まず食事について。ドッグフードやキャットフードと一口に言っても、おそらく各家庭、各ぺットによって好む食べ物は異なり、特定のものしか受け付けなかったり、市販のものではなく手作りのものしか食べないというぺットもいるかもしれない。しかし、人間でもそうだが、被災時は食料事情も普段通りではない。ぺットたちに常日頃から、なるべく何でも食べられるようにしつけておくことも必要だ。

また、避難所では普段より多くの人の中で暮らすことになる。ケージに入る時間も長くなる。ケージにも慣れておくと良いだろう。

そして、飼い主以外の人とも行動を共にしたり、体を触られることもある。その際に、人に牙をむいたり爪を立てたりしないよう、家族以外の人にも慣れる訓練をしておいたほうが良い。

狭いケージやいつもと違う食べ物など、かわいそうだと感じるかもしれない。しかし、そうしなければ、非常事態に命を守れなくなるということを、飼い主も、ぺット自身も、理解し備えておかなければいけない。

「想定外」をなくそう

▲「松山市総合防災訓練」で愛媛県獣医師会はペットの災害時の救護活動について啓発を実施

今回の被害状況は、戒能氏も想定していたものをはるかに超えていたという。

「様々な人が知恵を出し合って準備をしても、これで万全ということはないのかもしれません。しかし、できる限り想像を巡らせて、“想定外”をなくすようにしなければいけません。想定外だから仕方がないのではなく、想定しなければいけないのだと思います」と戒能氏。その言葉どおり、人も動物も安全に暮らしていける環境と備えを、今一度よく考えてみたい。

▲動物たちを守る思いを胸に

(愛媛県獣医師会も参加し災害時に備えたペットのケアを説明した「松山市総合防災訓練」の様子は「『同行避難』災害時に大切なペットを守るために【2】」で)

取材・文章 矢野智子

一部写真提供 愛媛県獣医師会

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