取材班による現地レポート

復興と活性化の両輪を回す、地域との関わり方〜NPO法人シルミルのむら

2019.11.20

河川の氾濫により、甚大な被害を受けた西予市野村町野村地区で、復興とともに地域活性化に取り組むNPO法人シルミルのむら。発災直後から支援物資やボランティアの受け入れに動き、被災4カ月後の2018年11月には、中止が危ぶまれた伝統行事「乙亥大相撲」を開催するためのクラウドファンディングに取り組んだ。災害から1年を過ぎた現在は、市街地の活性化や地域の魅力発信に取り組んでいる。活動の中心的存在でもある、同法人副理事長の山口聡子さんに、これまでの活動を振り返ってもらった。 

地域おこし協力隊2年目に起こった豪雨災害

2017年3月、山口さんは野村地区の地域おこし協力隊として着任。東京から西予市へのUターンだった。時を同じくしてシルミルのむらが設立され、山口さんも理事の一人となった。地域づくり団体の一員として活動するものの、初年度は住民自治組織との境目が曖昧で、法人独自の活動は少なかったという。2年目の2018年6月、「協力隊の任期を終えても、息の長い関わり方をしたい」と、NPO事業を推進するために副理事長の役に就いた。豪雨災害はその1カ月後に起きた。 

被災した市街地(上)と農地(下)(シルミルのむらフェイスブックページより)

まちの中央を流れる肱川の氾濫により、野村地区は範囲に浸水。商店街や農地、公共施設なども被災した。すぐに「地域づくり団体としてなにかできることはないか」と、行動を起こした山口さんにとって、シルミルのむらのNPO法人格が役に立った。「外部支援の団体や個人から、支援の受皿として、最初に見つけてもらえたんです」と振り返る。NPO団体のネットワークや、山口さん自身が東京で築いた人脈など、「外とのつながり」が地域につながった。発災2日後の7月9日から、支援物資、ボランティアの受け入れ窓口を開設。ボランティア希望者と地域のニーズとのマッチングを行った。災害ボランティアセンターの体制が整って以降は、炊き出しの他、公的支援から溢れている被災者の支援やニーズ調査を行った。 

被災者支援に大切なのは「温度感」だと語る山口さん。「温かい炊き出しは、おいしく感じると同時に、ほっとします。支援物資がきれいに揃っているだけで、優しい気遣いを感じ不安も和らぎます」と、物資プラスアルファの支援を心掛けた。被災地の集会所で落語の会を開いたり、足湯サービスや傾聴を行ったりと、リラクゼーションにも力を入れた。 

2018年8月22日に行われた落語会(シルミルのむらフェイスブックページより)

野村の誇る相撲大会が町を後押しする

野村には、1852年から160年以上続く「乙亥大相撲」がある。相撲界において唯一、プロとアマが同じ土俵に上がり熱戦を繰り広げる大会で、野村の人たちの誇りでもある。地域資源の有効活用で地域活性化を図るシルミルのむらにとっても、決して絶やしてはならない地元の伝統行事だ。 

乙亥大相撲(乙亥大相撲フェイスブックページより)

昨年の大規模水害は、相撲の舞台である「乙亥会館」さえも飲み込んだ。建物地下部分は天井まで浸かり、会場として使えなくなってしまった。しかし住民は「こんな時だからこそ、地域の人たちが集まり、活気を取り戻せるイベントを」と、開催場所を野村公会堂に移し、災害から3か月後の10月には土俵や桟敷席作りに取り掛かった。

シルミルのむら副理事長の山口さんが起案したクラウドファンディングによる全国からの支援も、土俵作りの費用の一部に充てた。第167回乙亥大相撲は11月27日に開催。例年の2日開催から1日開催に縮小したものの、満員の観客は迫力ある伝統相撲を楽しみ、復興への決意を新たにした。 

野村公会堂での土俵作り(乙亥大相撲フェイスブックページより)

第167回乙亥大相撲(OPEN JAPAN 緊急支援プロジェクト フェイスブックページより)

今年の乙亥大相撲は2日間開催に戻り、11月26日(火)27日(水)の両日に行われる予定。シルミルのむらは来場者のため観戦ツアーを企画している。 

地域と世代を越えて交流を生んだ「ノムライク」プロジェクト

地域の魅力を伝える事業は他に、住民や来訪者が野村を好きになる「ノムライク」プロジェクトを手掛ける。中でもノムライクでは、相撲はもとよりシルミルの語源でもあるシルクやミルク、宴会などの野村の文化や産業、名物を88人の住民がPRする姿を写真に収め、ポスターや冊子として掲出・発行するというユニークな事業も進行している。

「ノムライクに参加することで、多世代で一つのものを作る楽しさを感じてもらいたい」と山口さん。冊子制作の取材を通して、過去に野村で発行されていたフリーペーパーの編集者との交流も生まれ、そのフリーペーパーは冊子発行と同時に1号限りの復活が決定している。シルミルのむらの事業を軸に、新旧、内外、多世代と、さまざまな住民交流が生まれてきた。 

写真家、浅田政志さんの全面協力のもとに進む「ノムライク」の撮影現場。冊子は年明け以降に完成予定で、野村地区の住民や、地域のマラソン大会参加者に配布する予定(シルミルのむらフェイスブックページより)。

共助の精神が災害を乗り越えていく

災害を乗り越え、地域の復興に取り組む野村の人たち。市主催の復興計画への参画も積極的で、意見交換も活発だ。山口さんは野村の人たちの魅力をこう語る。 

「野村の人は、とにかくやってみる。やり始めたことは途中でやめない。その行動力、推進力がすごいんです。共助の精神が強い地域なので、旗振り役が少なくても、できる人が最大限のサポートをしてくれるNPOの私たちは、地域団体への支援に専念できるんです 

およそ1年続いた被災者支援活動に続いて、シルミルのむらが取り組んでいるのが「地域食堂」。孤食を防ぎ、周囲とつながって、小さなコミュニティを増やしたいと思っている。産直市のイートインや商店街の空きスペースなどで地域食堂を展開することで、住民の地理的な循環とお金の循環を生む狙いだ。「野村の人のつながりの強さを、職場や地域などの限られたコミュニティだけでなく、その外まで広げられたら、もっとたくさんの人が入って来れるまちになる」。山口さんの挑戦は続く。 

 

いまできること取材班
取材・文 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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