取材班による現地レポート

日本で唯一の防災家、野村功次郎さんが語る「これから」

2018.12.13

子どもに見せたいテレビ番組第1位「世界一受けたい授業」に、防災スペシャリストの先生として出演した野村功次郎さん。テレビでは、元消防士・救命救急士の知識と経験をフルに発揮し、名探偵コナン君と謎解きに挑戦した。

今や全国から講演依頼が殺到している野村さんに、7月の西日本豪雨を振り返ってもらった。

高校時代は東京にてタレント活動をしていたという経験を持つ野村さん。20歳の時、消防士として呉市消防局に配属。以後23年間、消防士・救命救急士として勤務。阪神淡路大震災や新潟中越地震、東日本大震災での現場、硫化水素事故現場などでも人命救助に当たった。職務をまっとうする毎日だったが、ある時、組織やマニュアルに縛られる公務員ではなく、フリーの立場で自分にしかできない災害救助がしたいと思うようになり、2013年に退職した。

日本防災士機構の認定する民間資格「防災士」は一般的によく知られている。社会のさまざまなシーンで防災力を高める活動を期待され、そのための知識と意識、技能を習得した人のことだ。

それに対し野村さんは、災害現場での人命救助活動の経験を元に、防災指導、講演会などを独自に行っていく、日本でただ一人の「防災家」と名乗っている。講演はいずれも「分かりやすい」「経験から教わる話は重い」などと好評だ。

 

7月6日、野村さんは神戸にいた。
岡山まで何とか帰ってきたものの、新幹線は不通。何とか広島の自宅へ戻ることができたのは、8日の夜だったそう。あちこち通行止めが相次ぐ中、8日に戻れたのは本当に運がよく、奇跡的だったと振り返る。

野村さんが最初におこなったのは、呉市天応を訪問することだった。
天応には、かつて消防士として勤務した天応出張所がある。天応地区は、土石流により11名の死者が出た、被害の大きかったエリア。周囲は「土石流危険区域」で、野村さん自身、被害を懸念していたところだった。

次に向かった現場は、三原市北方。
三原市もまた、死者8名と、甚大な被害が出たところだ。現場の視察をすると共に、避難所を訪問した。

三原市災害ボランティアセンター訪問時の野村さん

被災直後は、交通や物流が混乱し、誰しもできることが限られる。

野村さんは、SNSで不足物資の呼びかけをしたり、避難所情報を発信したりと、有益な情報提供を続けた。「避難所でストレスを溜めないための方法」「弱者の優先度を考えること」「衛生面で気を付けること」「避難所のレイアウト」「避難所で女性が気を付けるべきこと」、そして「リーダーを育てる大切さ」…。

野村さんの元へは、さまざまな質問が寄せられた。それらを振り返り、いくつかの問題点を挙げてくれた。

ハザードマップの活用法
「ハザードマップは確実ではない、と改めて知ってもらいたい。実際に自宅周辺を歩いて、安全かどうか最低限確認しておくことを肝に銘じましょう。町を歩くことは、町の歴史を知ることにもつながります。過去に被災したところがあれば、要注意です。地形から気付くこともあるはずです」

大雨と河川決壊の関係
「洪水が起きたとき、なぜ『様子を見に行って流された』という事件が起こるのか分かりますか? 河川水の、浸食と決壊のメカニズムを知らないからです。大雨により地盤内に水が浸みると、水の道ができ、雨とともにだんだん水の道が広がり、土砂崩れを起こします。これが決壊です。身を乗り出したその足元には、すでに水の道があり、足をすくわれてしまうのです。また、河川水による浸食は見えないところで徐々に進行しています。何も知らず近付いたときに堤防が滑り始め、巻き込まれるのです」

防災士に求められること
「防災士の中には、しっかりと研究されて頑張って活動している方もたくさんおられます。しかしせっかく防災士としてやる気を持っている人たちに、防災士としての役割を実践できる場が整っていないのが現状です。机上の理論ではなく、まずは行動する。やってみる。そういう取り組みが必要ではないでしょうか」

西日本豪雨後、全国から講演依頼があるという野村さん。依頼元は企業やPTA、行政と、幅広い。危機感が高まっているのか、「即戦的な話を求められることが多くなった」と分析する。

広島市立草津小学校にて教育講演「学校防災~地域と家庭をつなぐ安心、安全の心得」

2007年に野村さんが提言した「学校防災」をテーマに、地域での学校の位置付けや役割、コミュニティとしての未来像を語った。来場した保護者や地域の人から、たくさんの質問があり、有意義な講演となった

学校と児童館、地域の保育園に、絵本、文具等の寄贈も

最後に、私たちに今、できることを聞いた。

「ハザードマップの情報は常に更新しましょう。そして、個々にきちんとカスタマイズ、ローカライズして、改めて自分のものとして活用してもらいたいです。マニュアルにとらわれない行動がとれる人になること、これがいざというとき大切なことです。そして、自分の身に変換し、災害リスクを自分ごととして捉えることも重要です」

これなら、今すぐにでもできそうだ。
日本でただ一人の防災家、野村功次郎さんの言葉を心に刻みたい。

 

取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)

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