取材班による現地レポート

俯瞰して記録することで状況把握を支援したい~「ドローン・パイロット 」が伝えたいこと

2019.04.24

のどかな田園風景が広がる三原市久井町に、日本家屋「ギークハウス広島」(ぎーひろ)がある。

移住希望者に田舎暮らしを体験してもらうシェアハウスとして、またパソコンやIT関連分野に卓越した人たちの活躍拠点として、2017年春にオープンした。現在は、「ぎーひろドローン部」のメンバーがドローン体験飛行会や「出張ドローン部」を行ったり、併設する「ぎーひろ農園」でメンバーが実際に農業をしたりしている。(農地にまだ空きがあるそうで、農業体験希望者は問い合わせを)

平成30年7月豪雨災害では、三原市も甚大な被害を受けた。命を落とした人、けがをした人も多く、土砂災害や浸水被害箇所も広範囲に及んだ。ギークハウス広島も裏山が崩れ、家屋が一部損壊した。

誰もが混乱し何がどうなっているのか分からない7月7日。「ぎーひろドローン部」メンバーで、アビエイション・フライターク合同会社代表の谷口友介さんは冷静だった。いち早く被害状況を把握し、自らドローンを飛ばして被害箇所を空撮し、記録に残していた。

図書館司書として東広島市で勤務していた谷口さん。5年前の平成26年8月豪雨では、土砂災害により県内に多くの死者が出た。ちょうどその頃、空撮に手頃なカメラドローンが開発され市場に流通され始めていた。「このドローンなら災害を空からカメラで撮影し、被災状況をつぶさに把握することができるのではないか」と思っていたという。その秋にドローンを購入し、公園で練習をスタート。ただ当時のドローンはまだまだ安全性や飛行の安定性に問題があり、その解決にフェイスブックを使って全国のドローン愛好者と積極的に情報交換をしたそう。また各地で立ち上がり始めたドローンスクールを実際に受講し、指導者資格まで取得したり、大学の研究者も多く参加する研究会(フィールドサイエンスのためのドローン研究会)に所属したりもした。その頃からドローンは、川沿いの植物の植生を空中写真を分析して調べたり、東南アジアの熱帯泥炭地の開発調査を上空からドローンを使って見渡せる簡単なツールとして、研究者の間でも注目されていたという。

谷口さん自身も、この業界のさまざまな交流や関わりが増えてきて、ドローンを安全に飛行させる技量と知識を確実に積み重ねていった。ドローンの可能性や将来性があると感じた谷口さんは図書館司書の仕事を退職し、空撮や動画撮影と映像編集を手掛けるアビエイション・フライターク合同会社を起業した。

映像空撮業務(静止画撮影25,000円~、動画撮影50,000円~)を主として行っている谷口さん。企業でのドローンの導入コンサルと飛行講習も行っている。

昨年7月の豪雨災害時、谷口さんは広島市内の業務提携先の測量会社で災害時のドローンパイロットとして登録していた。雨の上がった7日の朝、その会社へ向おうと西へ車を走らせたが道路の陥没や冠水による渋滞で、東広島市から出ることさえできなくなっていた。自宅待機の合間にツイッターで被災情報を調べていたところ、三原市本郷町船木の住人からのSOSが数多く発信されているのに着目した。「広島市内へ行くより、隣市の三原市へ向かうほうが良い」と直感した谷口さんは、広島行きを諦め西条から東に本郷町へ向かう。

しかし、本郷町へ行く途中の、高屋町や河内町入野、広島空港周辺の道も各所で寸断されるなど結局、本郷町へもたどり着けなかった。カーナビの見知らぬ地図を頼りに大和町大草に迷い出て、ふと消防車両が多数集まる場所で車を止めた。死者も出たその民家の被害の大きさに思わずドローン撮影を行ったのがこの1枚だ。

7月7日 12時撮影(三原市大和町大草付近、谷口さん撮影)

大和町から帰路を東広島市河内町まで移動したところで、谷口さんはまた驚きの光景を目のあたりにする。沼田川渓谷のJR山陽本線の路盤流出。目を疑う光景がそこにあった。

7月7日 16時頃撮影(東広島市河内町下河内のJR路盤流出現場、谷口さん撮影)

この高度での近接撮影は、ドローンならでは。被災直後の貴重な動画や空撮写真は、すぐさま東広島市の危機管理課へもたらされ、谷口さんの提供により新聞社やテレビでも報道された。

その後発災から2日が経過したところで、再び本郷町舟木に何としてもたどり着こうと思った。空港から本郷ICへ接続する県道でようやく土砂が取り除かれ、沼田川沿いの県道33号も舟木大橋から本郷の国道2号線まで通過できるようになっていた。ギークハウス広島が気になり高坂を抜けて久井町へ。そして大和町に移動して白竜湖スポーツ村の白竜ドームが大変な被害を受けているのに驚愕し、すぐさまドローンで撮影した。旧和木小学校の避難所で避難指揮にあたっていた三原市議にこの空撮写真を見せて、ボランティアを申し出た。すると「三原市では本郷町船木や木原6丁目が大変なそうだから、その力を貸してほしい」と言われた。谷口さんはそのまま9日~12日まで三原市危機管理課・三原市消防本部の下で撮影に協力。三原市本郷町船木、木原6丁目、久井町、大和町など被害が大きかった地域のドローン空撮に従事した。東広島市の危機管理課でも17日~19日まで従事した。

 

「上空から鳥の目で被災状況を確認し、写真や映像に記録する作業にボランティアとしてかかわりました。三原市消防本部では広報車に同乗させてもらえたので、地域の人たちの声を直接聞かせてもらえたのはよかったです。市や消防にもたらされる通報以外に、『あの場所の被害もひどい』『あそこはもう見に行ったか』という現場の生の声にふれることで、じっとしていては把握できなかった被災地へ直後に駆け付けることができました。災害時は、消防署員は通報に即応するため待機し署から離れることができません。同時多発の広域災害時には地域消防団やボランティアによるこうした『遊軍的機能』も必要なのかなと強く感じましたね。そして不慣れで危険な場所でも消防署員に、空ばかりを注視するパイロットの安全を確保してもらえたので、終始安心して安全に任務につくができました」

7月9日 17時頃撮影(三原市本郷町舟木、谷口さん撮影)

被害状況調査時には、谷口さんの安全確保のため三原市消防本部警防課の山本優係長が随行した。「ドローン撮影は墜落の危険性もあり、不慣れな人の操縦では効果がありません。谷口さんの協力により、早い段階で被害状況や全体像の把握ができたことはありがたく、十分効果があったと思います」と話す。

報道格差も感じたという。被害の大きい倉敷市真備町や呉市天応の地域が全国放送される一方で、夥しい土石流に見舞われた木原6丁目の被災状況は全く報道されない。この被災地では「ここ木原もひどい状況だということを多くの人に知ってほしい、広く伝えてほしい」という切実な声を耳にした。「被災直後の甚大な被害を、ドローンで撮影したことに意義はあったと思います。その後すぐに逆走台風が襲来するなどしたため、被災後の空撮画像が避難誘導の際に役に立った、という声もいただきました」と谷口さんは振り返る。今年もまた梅雨の時期が来る。ドローン・パイロットとして防災や減災に何かできることがあれば、今年も積極的に役に立てたらと考えている。

 

今年2月11日には、「広島県防災ドローン研究会」の活動の一環として、呉市安浦町の市原地区の災害復旧の状況を確認するため、市原自治会長の中村正美さんの案内で有志達と一緒にドローン空撮を行なった。

「昨年の豪雨災害ではダム上流の野呂川沿いのこの広い範囲で夥しい土砂崩れが発生し、多数の家屋がその被害に遭いました。この集落では3名の方が命を落されています。幾条もの谷筋から水が出て大量の土砂や流木を土石流となって押し流し、民家や耕作地を瓦礫で覆い尽くしました。現在はその場所に複数の大型ショベルや岩塊を破砕する重機が入って作業が続いており、まるで露天の採石場のようです。下流の野呂川ダムでは一時的に水位を下げて、ダム湖に流れ込んだ大量の堆砂を重機や不整地作業車を使って浚渫し、大型ダンプを使って運び出す作業が今も続いています」と、その時の様子を語る谷口さん。市原地区の今後の復旧と復興計画に、空撮写真が大いに役立つことだろう。

 

ここまでの活動を広く知ってもらい、今後の防災に生かしてもらおうと、現在ギークハウス広島にて全22枚の大判プリント写真を公開中だ。(不定期開場のため、閲覧希望者はギークハウスへ事前連絡のこと)。今後は市の危機管理課とも相談をして、できるだけ多くの市民の方たちの目に触れることができるように、市庁舎等での写真展示も計画していきたいとのことだ。

詳細や空撮の依頼・相談は、ギークハウス広島 メール:yusuke@taniguchi.name

YouTubeチャンネルでは撮影動画を公開している。

 

「あの災害から10カ月が過ぎようとしています。大地に刻まれた災害の痕跡は消えることのないまま、いまだ復旧・復興の道のりは半ばです。平成最後のあの夏に起きた痛ましい災害を、令和の新しい時代には未然に防ぐことができるような、記憶と知恵と手だてを呼び起こすよすがとして頂ければ幸いです」

発災直後の危険箇所にも足を運び、貴重な瞬間を記録に収めた谷口さん。

ドローンでしか撮れない風景がある。空撮でしか伝えられないことがある。

そして、もっと役に立てることがある。危険を顧みず、ボランティアで撮影した谷口さんの写真から、私たちの「いまできること」は何かを考えたい。

 

いまできること取材班
取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)
写真 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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