取材班による現地レポート

ふるさとを守るため農地再生に挑む~呉市安浦町 市原ファームの挑戦

2019.06.01

豪雨災害により故郷を離れざるをえなくなった住民が帰って来られるよう、農地の再生に取り組んでいる団体がある。呉市安浦町の市原ファームだ。数年はかかると言われる復興への道を、一歩ずつ進んでゆく彼らの取り組みを取材した。

安浦町の山間にある市原地区は、24世帯が暮らす小さな集落だった。平成30年7月豪雨では、大規模土石流により9戸が全壊。3人の命が失われた。同地区と周辺を結ぶ道路は、土砂により全て寸断。通信施設も被災したため固定電話も携帯電話もつながらない、まさに「陸の孤島」となった。道路開通後も住民が共同で設置した小規模水道は市の水道ではないためすぐには復旧のめどが立たず、世帯数は10まで減少。コミュニティーの維持が困難な状況に追い込まれていた。

発災から2カ月後の市原(2018年9月撮影・市原ファーム提供)

「市原を出たい」。そんな住民の声もあったが、市原集落自治会は水道復旧に向けて呉市と協議を続けた。市の理解により3月29日にようやく給水が再開。災害発生からおよそ9カ月におよぶ断水が解消された。

水道は復旧したものの、市原地区はいまだに多くの場所が土砂に覆われている。大型の油圧ショベルが土砂をすくい、何台ものダンプが往来する。土砂が取り除かれると、かつてそこにあった家屋や農地が姿を現す。

徐々に見えてくる市原の地形を、市原ファーム副代表の中原さんが案内してくれた。

「米作りのブランクを空けたくない」。
市原ファーム代表で、市原集落自治会長も務める中村正美さんは語る。土砂を逃れた中村さんの田圃は2ヘクタールのうちわずか20アール。10分の1になった。それでもこの田に稲を植え、秋には復旧・復興を支援してくれた人たちに無償で米を提供したいと思っている。

中村さんが今年稲作をする田圃。

多くの人がボランティアとして市原を訪れ、この地のために尽くしてくれた。彼らから住民は多くのことを学んだという。

「何ら経済的利益を求めず、懸命に市原のために汗を流す。彼らはそれが楽しいと言ってくれました。自分の存在で誰かが喜んでくれることを体感できるのがボランティアなのだと。市原復興のために、私たち自身もボランティア精神を持つべきなのです」。

ボランティアの作業は、依頼者に立ち会ってもらったり作業に加わってもらったりできるよう、日程を調整した。復興は人任せではなく、一体で進めているのだと感じてほしいからだ。

「これまでは住民の気持ちが一つにまとまらないことも多かった。災害から10カ月経ち、少しずつ理解が深まってきたようです。ボランティアの人たちのお陰で、地域も成長できたと思います」と中村さんは振り返る。

「住民がお互いの本質を理解できるようになってきた」と語る中村さん。地域の復旧を優先しているため、自宅は今もブルーシートがかかったままだ。

地域の絆が深まる中、農地の復旧は長い道のりを歩み始めたばかりだ。ようやく姿を見せ始めた田圃は今後、2年半かけて区画整理される。その後、田に流入している山土や岩石を取り除かなければならないが、これは各農家の自助努力になる。稲作ができるようになるまでは、3~4年を要す。

岩石や土砂の撤去は機械に頼らざるを得ない。災害直後から約7か月間、友人の土木業社長から重機を借りていたが、事業に支障をきたすために返還。現在は別の友人から寸借しているが、必要期間は今後数年間にわたる。リースの年間経費、中古重機の修理・メンテナンス費用などと比較したが、新規で購入するのが一番低予算だった。市原集落として油圧ショベルを1台所有し、農地再生を後押ししたいと考え、1月に任意団体「市原ファーム」を発足させた。現在、重機購入への支援を呼びかけている。

「市原の農地再生のため、誰でも気兼ねなく使えるのが理想。そのために個人所有ではなく団体所有としたい。重機購入までに市原ファームは法人化する予定です」と語る中村さん。自身は私財をなげうって、復旧作業用に3トンダンプを購入した。

石垣を組む中村さんと副代表の大下さん。

「こんなことをしても、50年後に市原があるかどうか分からないじゃないか」という声もあったという。だが、いま市原を再生させなければ、50年後には確実になくなってしまう。圃場を整備し、農業の担い手を確保して、この環境を守りたい。災害で離れてしまった人たちが、戻って来られる市原にするのが中村さんの使命だ。その源はどこにあるのか。

「災害に限らず、苦境を知った者として、元の状態に戻さなければいけない。それが社会的使命だと思っているんです」。
市原の復興は、ゆっくりと着実に進んでいく。

現在、市原地区としてのボランティア受け入れ窓口は設置していない。
希望者は呉市社会福祉協議会(0823-25-3509)に連絡を。

市原ファームへの支援金は以下の口座へ
ゆうちょ銀行 記号 15170 番号 57667971
(振込先名)イチバラファーム サイガイフッコウ・サイセイヲススメルカイ

他の金融機関から ゆうちょ銀行口座へ振り込みの場合
(店名)五一八 (読み・ゴイチハチ)
(預金種目)普通預金
(口座番号)5766797

いまできること取材班
写真・文 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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