取材班による現地レポート

避難者とペットの安全のために~自治体職員向け講演会開催

2019.06.23

今や、ペットを飼っている家庭は3割以上といわれている。いざという時、ペットを飼っている人たちが避難所に行くのを躊躇しないように、行政側ができることとは。そして、ペットを飼っている人たちが普段からできる対策とは。平成28年熊本地震で、震源地である益城町で犬猫避難所「益城町わんにゃんハウス」運営に尽力した冨士岡剛さんが、経験を元に講演を行った。

6月3日、広島県東広島市役所で自治体職員向けに開催された講演会「災害時のペット同行避難への備え」には、市職員を中心に、県動物愛護センタースタッフ、広島県動物愛護推進員、消防関係者、ボランティア、ペット養育者など30人が参加した。

講師の冨士岡剛さんは熊本県在住。一般社団法人HUG代表理事、熊本県動物愛護センター運営協議会委員も務めている。熊本震災後のペット同行避難者の支援経験を基に、全国の行政機関の視察、地域ボランティアとの意見交換と連携、飼い主向け・ボランティア向け・自治体向けのペット防災セミナーの開催も続けている。広島県東広島市へも幾度も足を運び、セミナー等を開催してきた縁で、今回の講演が実現した。

平成28年熊本地震で分かったこと

(画像提供:冨士岡さん)

平成28年熊本地震後、一番大きな避難所である益城町総合体育館には、犬や猫を連れた被災者も多く身を寄せたという。発災直後のペット同行避難の様子を、冨士岡さんが振り返る。

「震災直後、益城町と熊本市内の多くの避難所では犬猫は室内同伴の状態でした。避難所には、比較的社会慣れした小型犬たちが多かった事で、震災直後の同行避難は比較的成功していたように感じました。ペットと家族が分離された避難所、飼い主側や避難所運営側の努力によって室内同伴ができていた避難所もありました。ただし、自治体が災害時のペットの問題に備えていた訳ではなく、時間が経つに連れて避難所内外で様々な問題が起きました」

(画像提供:冨士岡さん)

普段は利口な犬も、慣れない環境にストレスがたまり、吠えたりうなったりするようになった。また、最終的には衛生上の理由で最初は避難所内にいたペットたちも避難所の外へと出される事になった。

そこで、「益城町いぬネコ家族プロジェクト」の一環として設立されたのが「益城町わんにゃんハウス」。環境省がバックアップしている施設だ。震災直後から10月末までの約半年間、避難所や仮設で暮らす飼い主と共に、飼育管理を行ってきた。

冨士岡さんは、「益城町わんにゃんハウス」現場責任者として災害支援を続けながら、「人とペットの同行避難について検証してきた。ペットの飼い主や避難所運営者などから聞き取りを重ね、多くの避難所も見てきたという。

「熊本地震を振り返って思うのは、まずペットを同伴できる避難所、できない避難所を事前に指定するべきということ。各避難所に来るであろう人のうち、どれくらいがペットを飼っているか、事前に把握することも必要でしょう。しつけや社会慣れができていない犬たちの飼い主が車中泊やテント生活を送り、エコノミークラス症候群や熱中症による人命の危機に瀕していた事が大きな問題となりました。しつけや社会化は、飼い主の人たちが事前にしておくべき事だと思います。災害時、『避難所』という特殊な環境の中でこれらができていない犬と同伴避難する事は、非常に難しい。熊本地震を教訓として、犬のしつけや社会化が『災害という緊急時には人命にも影響する』という認識をするべきですし、行政側も災害時のペット問題を動物の問題、飼い主だけの問題としてではなく、被災者全体の問題として捉えて支援の枠組み作りをしておくべきです」

ガイドライン作成と、周知徹底

避難所のトラブル、車中泊やテント生活による災害関連死の可能性、犬猫を放置してしまうことによる環境悪化。これらを防ぐために、自治体はどう備えればよいのか。

冨士岡さんは「災害時に、行政機関が、人とペットの同行避難に対応することはできません」と断言する。災害時に、限られた職員では、動物まで手が回らないのが現実なのだ。

「環境省のガイドラインには、『ペット連れ被災者が必要とする支援を自治体が担うのは、ペットの飼い主の早期自立を支援することであり、ペットの健康と安全確保にも寄与する。

ペットを飼養していない多くの被災者とのトラブルを最小化させ、全ての被災者の生活環境の保全をはかることである。民間の活用がポイントである』旨が書かれています。東日本大震災時はガイドラインがなく、同行避難できなかったため放置された犬猫が繁殖したりして問題になりました。現在、このガイドラインには「避難所へ連れて逃げろ」とは書かれていますが、その先は自治体に任されている形です。

私は、自治体がガイドラインを作成し、その内容を周知徹底することを薦めます。そこには、狂犬病予防接種済みで鑑札の装着がない犬は、避難所の中に入れないと明記してもいいと思います。最低限のしつけや社会慣れさせることは飼い主のマナーの問題であると、最初から周知しておくべき。飼い主の意識向上と、予防接種の接種率向上につながると思います。ガイドラインを周知することは、飼い主がいざというときに備えることができるのです。『うちの犬はよく吠えるし、しつけが難しいなら、預け先をあらかじめ決めておこう』『猫はストレスがたまるから、きちんと車中泊ができるように準備しておこう』という具合に。ガイドラインを周知することで飼い主が自助の備えをすれば、災害時の同行避難支援も効果的に行え、それは結果的に災害時の自治体の負担減につながっていくのです」

次のステップ 登録ボランティア制度

 「ガイドラインができたら、県動物愛護推進員を中心に、登録ボランティア制度を組織しましょう。同行避難支援について理解している人、避難所全体を見て、ペットを飼ってない人たちのことも考え支援できる人、情報を行政担当者につなげることができる人がいるといいですね。行政側が、同行避難をスムーズにさせるためにできることがあります。避難所スタッフに『同行避難してきたペットに関しては、登録ボランティアが担当します』という連絡を入れるだけでいいのです。災害時に、登録ボランティアが動きやすくなることで、ペットのことを良く理解した人たちが力を発揮してくれます。東広島市には、県動物愛護推進員をはじめ、さまざまなボランティアさんがいますので、行政の枠組の元で、ぜひ登録制度を作ってください。災害時に、ボランティアさんにしかできないことがあるはずです」

「時間の都合上、全てを伝えることができなかったのですが」と冨士岡さん。しかし、メモを取りながら熱心に耳を傾ける参加者に「今すべきこと」がしっかりと伝わる時間となった。

熊本地震の貴重な経験を、はるばる東広島市民へ伝えてくれた冨士岡さん。平時も、災害時も、家族であるペットと共に安心して過ごせる社会を目指し、これからも全国でペット防災セミナー等の活動を続けていく予定だ。

 

いまできること取材班
取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)
写真 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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