取材班による現地レポート

「1200年続く文化を守り、後世に繋ぎたい」呉市音戸町 八幡山神社奉賛會の挑戦

2019.07.06

写真提供:川本さん

1200年もの間、氏子の平安無事を願いながら祭事を執り行い続けてきたといわれる八幡山神社(広島県呉市)が2018年7月の豪雨で甚大な被害を受けた。その修復にかかる総工費はおよそ8000万円。「この先も途絶えさせること無く、千年、二千年先まで続く文化を残していきたい」と、神社の復旧に奔走する八幡山神社奉賛會の取り組みを取材した。

7月6日、風光明媚な音戸の町を豪雨が襲った

訪れたのは広島県呉市音戸町にある人口約5000人余りの波多見(はたみ)という集落。広島県の最南端にあたる倉橋島という四方を海に囲まれた島の中にある。その倉橋島と本土の間の海峡は「音戸の瀬戸」と呼ばれ、古くは遣唐使船の建造や航海の要所として栄えた場所で、平清盛が開削したという伝説もある風光明媚な観光地だ。

7月6日、この美しい町も激しい雨に見舞われた。
その日の夜中には各所で道路が寸断され、町は孤立化。いくつかの民家が土砂崩れの被害にあった。そして町民が氏神として崇める八幡山神社も、玉垣と拝殿横の森およそ3分の1が土砂と共に崩落した。

神社横にあった鎮守の森が10メートル下の道路にごっそりと崩れ落ちた

20年にわたって、神社への奉仕や地区の祭り囃子や伝統文化の後継者育成に取り組む奉賛會会長の川本幸謹さんは、神社の変わり果てた姿を初めて見たとき自身の目を疑ったという。

「鎮守の森」の土砂はこの駐車場まで流れ込んだ

「住民の何人かが夜中に重たいものが崩れるような轟音を聞いたらしいけど、まさかあの鎮守の森がごっそり崩れ落ちるなんて。あの時はみんな、ただ呆然としとったよね」

奉賛會の主要メンバー。右から川本幸謹さん、松本竜典さん、上向井清士さん、浦島健一さんが八幡山神社に集まって当時を振り返ってくれた

川本さんを会長とする青年団、奉賛會のメンバーは、高校生から50代までの約50人余りの町民が所属している。八幡山神社で行われる初詣、節分(豆まき)、とんど祭り、秋の禮大祭など全ての祭事を手伝うのが役目だ。

その奉賛會も、1990年代頃に音戸町の人口が徐々に減り始めると共に、消滅していた時期もあるという。しかし長老からの叱咤激励もあり、2003年に川本さんによって青年団が復活。さらに2011年、その青年団で育った中堅たちが奉賛會を復活させた。

八幡山神社は町民の心の拠り所

9月の禮大祭は遠方からも多くの人が訪れる一大イベントだ

豪雨災害から2ヶ月後の昨年9月も、台風の中、禮大祭は規模を縮小しながらも行われたという。

多くの被災地では災害後、祭りをはじめとする様々な催しが中止された。それには「こんな時に祭りやイベントは慎むべき」という空気があったことを多くの被災地で聞いた。

「祭りというと勘違いされる人が多いけど、禮大祭は氏子にとって大切な神事じゃけえね。これまで音戸の禮大祭はどんなことがあっても続けてきた。去年もやめるという判断はなかった」
川本さんは奉賛會の活動に対して色々な意見があることも承知している。

「祭りの時だけ集まるんじゃ、地域の人には認めてもらえん」と、祭事以外にも海の清掃をしたり、日頃から地域活動にも積極的に参加している。メンバーのほとんどが音戸町で生まれ育った地元っ子たちだ。
「だからどこの家がお年寄りだけだとか、体の不自由な人がどこの家におるということも、全部わかっとる」と川本さん。

災害直後は奉賛會メンバーで給水活動に奔走

災害直後から10日間、消防団と協力し、水の供給や車への積み下ろしを手伝った

豪雨から1日明けた7月7日。
奉賛會のメンバーのLINEグループに「もうすぐ水が止まるらしい」という情報が入った。川本さんたちはすぐに、メンバーに近隣の町民に、水が出るうちに水を貯めておくよう伝える指示を出した。

間もなく情報通り、断水が始まった。川本さんは知人から軽トラックを借りて300リットルのタンクを積み込み、給水所で水を汲んでペットボトルに詰め替え、給水所まで行けないお年寄りや体の不自由な方に届けた。その作業は断水が終わるまでの約2週間あまり続いた。

八幡山神社再建のためクラウドファンディングに挑戦

町が少しずつ落ち着きを取り戻し始めた今年に入って、八幡山神社の再建に取り掛かった。土砂は拝殿まで残り10cmのところまで迫り、拝殿の倒壊を防ぐには一刻を争う状態だった。

まずは土砂の撤去し、崩落した法面に杭を打ち込み地盤を固めたうえで、擁壁を設置しなければならない。また、崩落した玉垣の修復や、流れてしまった森を取り戻すための植樹も必要だ。複数の業者を呼んで見積もりをしたところ、総工費8000万円かかることがわかった。

宮司と氏子総代で話し合い、まずは音戸町の氏子に事情を説明し、寄付をお願いする手紙を配布することにした。しかし、氏子もまた大なり小なり豪雨で被害を受けた被災者だ。そういう人たちに対して心苦しさを抱えつつも、丁寧にお願いをして回った。その結果、2019年6月現在およそ6000万円集まった。

八幡山神社は瀬戸の海を望む小高い丘にある

西暦757年建立。応神天皇、神功皇后、玉依姫命を祀る

「音戸の人にとって八幡山神社は、昔から初詣、節分、七五三、とんど祭り、秋の大祭、結婚式、初参りなど、人生の節目節目で必ず訪れる、なくてはならない大切な心の拠り所なんです。だからこんな時こそ、みんながこうやって協力してくれるんだと思います」

メンバーも子どもの頃はこの境内でよく遊んでいたという

そうして今年3月から始まった工事だが、川本さんは9月までには最低限の工事を終えたいと考えている。
「秋の禮大祭が9月末の大潮の時期にあって、町内外の氏子が皆、参拝するんです。それまでにはほぼ、工事が済んだ状態にして、参拝にこられた氏子さん達を安心させてあげたいんです」
と、9月末までの崩れた法面の擁壁の設置と、玉垣の修復を目指す。

崩れた法面の擁壁完成は9月末には間に合いそうだ

しかし、課題は山積みだ。総工費8000万円のうち調達できたのは6000万円。あと2000万円足りない。「過疎化と高齢化が進む音戸町の氏子たちだけにこれ以上頼ることはできない」と、クラウドファンディングも始めた。

「資金を集めたいということはもちろん、これをきっかけに、むかし音戸町に住んでいたことのある人や、音戸町にゆかりのある人が気が付いてくれたらという思いもある」と川本さん。
期限を7月末に設定にして寄付を募っている。

支援金は全額を神社の復旧復興資金に当てる。返礼品等のお返しはできない状況だが、支援してくれた人には復旧復興の様子をメールで報告するという。

クラウドファンディングは一口3000円から支援できる。
「1200年続いてきた町の伝統・文化を後世に繋ぎたい」
という活動に賛同された方はぜひご協力いただきたいと思う。

※支援はこちらから
クラウドファンディング「レディフォー」

いまできること取材班
写真・文 イソナガアキコ

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