取材班による現地レポート

笑顔の一杯を復興の証に~呉駅に2日間限定のビールスタンド

2019.08.28

「西日本豪雨災害から1年。一杯のビールが呉を、そして貴方を笑顔にします!」

ビールスタンド重富(広島市)の店主で、「ビール注ぎの達人」と呼ばれる重富寛さんが8月17・18日の2日間、平成30年西日本豪雨で被害の大きかった呉市へ出張。JR呉駅2階 改札側出入口 特設会場でビールを注いだ。2日間の売上の一部は、被災地支援活動に寄付された。

特設会場で、真剣なまなざしでビールを注ぐ重富さん。

 

この日注ぐ銘柄は、クラフトビール工房を併設した居酒屋「海軍さんの麦酒舘」の地ビール「ピルスナー」だ。重富さんのビールを求めてわざわざJRでやって来た人、会社帰りに立ち寄った人、偶然通りかかった人たちが、列を作った。

 

ビールスタンド重富は、広島一の繁華街にほど近い広島市中区銀山町にある。定員は約10人の、小さな立ち飲みスタイルのスタンドだ。重富さんは、併設する重富酒店の三代目店主でもあり、「ビールのおいしさを伝えたくて」7年前からビールスタンド重富を始めた。

ビールスタンドのオープンは17時から19時までの基本2時間、2杯まで。おつまみなし、持ち込みNG。これは「よその店の客を奪うのではなく、まずここで飲んで次の店へ行ってほしい。周囲の店全体を盛り上げたい」という思いからだ。ビールを注ぎながら、心の中では常に「ビールで広島を元気にしたい。ビールで笑顔になってほしい」と願っている。

酒店、ビールスタンドを経営しながら、ボランティア活動も行っている重富さん。1995年1月に起きた阪神・淡路大震災では、被災地へ炊き出しに赴いた。2011年3月に起きた東日本大震災では、「石巻の子どもたちが下を向いている、上を向いて青空を見て欲しい」という中学校の先生の話を聞き、「こいのぼりを届けよう」と思い立った。出番がなくなったこいのぼり、ずっと収納したままのこいのぼりの収集を呼びかけると、約300匹のこいのぼりが集まった。「ゴールデンウィークまでに東北の空へ泳がせたい」と、4月末に宮城県名取市の中学校、石巻市の小・中学校等へ行き、生徒達と一緒にこいのぼりを設置した。その時、「子どもたちのことを考える余裕がなかったが、こいのぼりを見て喜ぶ子どもの笑顔を見ていたら、私たち大人ができることがまだまだあると思いました」「やっと止まっていた時計が動き出したよう」と被災者から声を掛けられたことが、今でも心に残っているという。

「あの時のこいのぼりを一緒に設置した子が、今、ビールが飲める年になってるなんてね」

 

平成30年西日本豪雨から一年。「何かしたい」と思っていた重富さんは、今回は「自然と笑顔になる」ビールで呉を元気にしたいと考えた。

ビールスタンド重富のビールの特徴は「注ぎ方」にある。一つのビールが、注ぎ方により全く違う味わいになるから不思議だ。今回登場した「海軍さんの麦酒舘」の地ビール「ピルスナー」も、「1度注ぎ」「2度注ぎ」「シャープ注ぎ」などの達人のテクニックにより、最高においしい一杯となって提供された。

 

「広島においしいビールを届けたい。この一杯で一日の疲れを癒し、笑顔になってほしい」と願う重富さん。

ビールは女性たちにも大人気。「会社帰りに急いで立ち寄りました」「ビールファンです」と話す女性会社員四人組も、笑顔で乾杯!

「ラジオで告知していたのを聞いて、大竹市から電車で来ました」「重富さんの一杯が飲めるならどこへでも行きます」と話す重富ファンのお2人。

 

駅構内という特殊な場所ながら、「日頃通過点でしかない駅で、こんなおいしい一杯が飲めるなんて」「車の運転の心配がないので思い切り味わえます。駅にビールスタンドがあるのは新鮮でいいと思う」という声も聞かれた。呉の人にはよく知られている「海軍さんの麦酒舘」の地ビールだが、この日は「いつもよりさらにおいしく感じた」「重富さんが呉のビールを注いでくれて感激」と話す人も。いつの間にか立ち飲み客同士で会話が広がっている。

 

重富さんの「一杯のビールが呉を、そして貴方を笑顔にします!」という思いは、駅構内の特設会場でしっかり伝わった。被災地・呉のビールを呉駅で、達人から注いでもらう一杯は、笑顔と会話を生み、一人、また一人と人を引き付けた。

ビールから復興支援。重富さんにしかできない方法で、呉を元気付けた2日間だった。

 

 

いまできること取材班
取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)
写真 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

 

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