取材班による現地レポート

YESもNOも生かし、多様な価値観を学ぶ場~防災ゲームを活用した、防災、減災の取り組み

2020.03.09

防災、減災の取り組みを自らの問題として考えると同時に、さまざまな意見や価値観を共有。カードゲーム形式の防災教材「クロスロード」を活用したグループワークの様子を取材した。参加者は、防災教育を通じて災害時でも助け合うことができる地域づくりの進め方を学んだ。

防災を自分事として考え、共有するゲーム「クロスロード」

クロスロードは、阪神・淡路大震災時に災害対応にあたった神戸市職員へのインタビューをもとに作成された、カードゲーム形式の防災教材。勝ち負けや正解などはなく、さまざまな災害場面での判断をグループ内で語り、考え方を共有していくゲームだ。限られた時間のため、クロスロードの要素を引用する形でワークが進められた。

ファシリテーターはトリニティカレッジ広島医療福祉専門学校専任教員の藤原久礼さん。「ボランティア団体や自治会などの立場で来ている人も、今は個人として参加してほしい。ディスカッションを通して、いろいろな見方や考え方があることを知ってもらいたい」と語った。

災害を想定した「究極の選択」でディスカッション

ゲームは4つの問題が出題され、参加者は「YES」「NO」で答えた後、グループで討議し、グループとしての「YES」「NO」を決めるという形式。第1問から順に、その内容をレポートする。参加者の発表の後は、広島県地域支え合いセンター専門相談員の井岡仁志さんからコメントがあった。

第1問 あなたは川沿いに住んでいます。母親(65歳)、妻、小学生の子ども2人と同居しています。激しい雨が降り続き、深夜0時に避難勧告が発令されました。すぐに避難所に向かいますか?

各自が一斉に回答し、その理由をグループ内で共有した後、グループでの結論を出す。テーブルごとに討議が進む中、藤原さんの「自分の意見を述べるだけでなく、みんなの意見を聞くように。多数決ではなく、全員が納得できた答えを選んで」という声が響く。

YESを選択したグループからは、「勧告を無視していても、避難指示になればすぐに逃げなければいけない。逃げるなら早いうちに」「実際に川のそばに住んでいると浸水リスクが大きい。良い避難所があれば早めに逃げたい」。NOのグループからは「参加者に、母親の足が不自由な人がいる。雨がひどいようなら避難所ではなく、上の階など安全なところで待機したい」「子どもが小学生低学年だと、安全に避難できるか心配」などの声があった。

井岡さん「読み取れる情報が少ないので、個々のケースに落とし込んで考えてみる。何を大切にするのかの違いで、YESとNOに分かれる」

第2問 あなたはゴールデンレトリバーを飼っています。大きな地震が起き、避難所に行かなければなりません。犬を連れて行きますか?(YES)置いていきますか?(NO)

YESの意見「犬を連れていける避難所があれば、という条件付きでYES。犬嫌いの人や動物アレルギーの人などには配慮が必要」

NOの意見「NOと言ってもYESとNOの間で、本当は結論を出したくない。人も犬も同じ命だが、避難所は自分一人の場所ではない。心を鬼にしてNOだが、本当は一緒に家に残りたい」

井岡さん「避難所で動物愛護団体が世話をしてくれる所もある。連れて行くべきか否かではなく、こういった環境設定ができるように、地域で話し合っておくと良い」

第3問 あなたは災害ボランティアです。被災地の土のう積みを頼まれ、仲間と現場に向かう途中で、家の屋根にブルーシートを張ろうとしている高齢者がいました。仲間は「こっちを手伝おう」と言います。仲間とブルーシート張りを手伝いますか?(YES)、土のう積みに向かいますか?(NO)

YESの意見「グループにはボランティアセンター運営者もいた。依頼を無視してのシート張りはボラセンの立場からはNGだが、個人的にはYES」

NOの意見「自分が屋根から落ちたら迷惑をかけてしまう。思いとしては高齢者に代わって、シート張りをしたいが……ジレンマを感じる」

井岡さん「西日本豪雨と同じ年に発生した大阪北部地震や台風21号の影響で、大阪では今も屋根にブルーシートが張ってある家が多い。ボラセンでのニーズもほとんどが屋根対策。地域の自治会向けに、高所作業の技術指導ができる人が講習会を開催したNPOもある」

第4問 あなたは地震による津波が最短10分で到達する海辺の集落に住んでいます。大地震が発生しました。避難しようとしたとき、近所で一人暮らしをしているおばあちゃんのことが心配になりました。おばあちゃんの様子を見に行きますか?(YES)避難所に急ぎますか?(NO)

YESの意見「何があってもてんでんこ(津波が来たら一人でも高台へ逃げろ)だが、見に行かなければ」「10分あれば、少なくとも声を掛けることはできる」

NOの意見「津波到達まで10分の状況。それぞれが逃げることに専念すれば、被害が最も小さくなる」

井岡さん「『釜石の奇跡』は、奇跡ではなく徹底した防災教育の賜物。まず子どもたちが逃げ、次いで大人、高齢者が続いた。和歌山県尾鷲市では、津波発生時に高齢者を乗せて逃げるために、辻々にリヤカーを置いている。リヤカー代は行政が補助し、あとは地域の共助。住民がこの方式を選択した」

ゲームをヒントに、防災やボランティアのあり方を再考

尾道市から参加した濱本桂太さんは「まとめなくてもいいということではあったが、意見が割れたり、答えが決まらなかったりと、議論が白熱した。異なる考えを聞くことができて良かった」と感想を述べた。

藤原さんは「緊急時にはリーダーシップの強い人がいないと先に進まないことも多いが、日常の中では地域のみんなで意見を出し合い、つながって、語り合ってほしい。そうすることで、物事は進んでいく」と総括。

井岡さんは「ボランティアを『派遣する』と言うこともあるが、誰かの命令で動いているわけではない。ボランティア=助ける人、と便利に考えるのではなく、社会の問題に主体的に参加していく人をどう増やしていくのか。多様な考え方があるからこそ、多様な活動が生まれる。そのためにみんなで話し合っていくプロセスを大事にしたい」と語った。

さまざまな災害のシーンを想定し、意見を交わすことで、相互の理解が進んでいったグループワーク。防災ゲームは単なるシミュレーションにとどまらず、参加者のコミュニケーション力を上げ、地域の安全性やコミュニティを見直す絶好のツールになるだろう。ゲームを通じて多様な価値観を垣間見ることができた90分だった。

 

いまできること取材班
取材・文・写真/堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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