取材班による現地レポート

歌声が、笑顔が戻る。〜岡田分館の「歌声喫茶」〜

2018.10.05

岡田地区に歌声喫茶

平成30年西日本豪雨で被災した倉敷市真備町。堤防が決壊した小田川から北へ約3キロの場所に、避難所・倉敷市立岡田小学校がある。ここから歩いてすぐの「真備公民館岡田分館」で9月16日、賑やかな声が響いた。

時間の止まった時計

同館の入り口・公衆電話の隣には、大きな掛け時計が置いてある。この建物が浸水したであろう11時5分を指したまま止まっていた。館内は、荷物を出し、床を剥がした状態だった。この日までに、板を載せ床を作りパイプ椅子を並べ、ステージには「歌声喫茶」と書かれた横断幕も用意した。

「歌声喫茶」を復活したい

「歌声喫茶」とはカラオケ機材の普及する以前、1950年代にピアノやアコーディオンなど楽器に合わせ、唱歌やフォークソングを客が合唱する店が流行した。近年、全国的にも復活の兆しがある。

同館で「歌声喫茶」が始まったのは2015年6月。岡田シニア倶楽部の人たちを中心に50〜60人ほどから始まった同イベントは、3周年を迎える頃には100人を超え真備町外からも参加者が訪れるようになった。主催は、岡田シニア倶楽部南クラブ会長の前田光男さん。3周年を迎えほっとしていた矢先の災害だった。自身の家も、同館も浸水し、しばらくは開催できないとあきらめていた。周囲から「歌声喫茶」で元気を分けて欲しいと要望をたくさんもらい、今回の開催を決意したという。

満員御礼

人は集まってくれるのだろうかと心配しながら当日を迎えた。避難所生活をする人、仮設住宅に移り住んだ人、まだリフォームの終わっていない自宅で避難生活を送る人、県外に避難している人、被災地域外からの人、想像を上回る約140人が集まった。パイプ椅子には座りきれず、会場の外まで人が溢れた。

青春時代

「青春時代の真ん中は 道に迷っているばかり」
森田公一とトップギャランが歌った「青春時代」より引用

「歌声喫茶」に通った青春時代を思い出し、手を取り合い、目に涙を浮かべる人も。胸に詰まっていた感情が歌声と共に解放されていく瞬間だった。
歌の合間には、お茶や菓子が無料で振る舞われ、「どこに住んでいるの」「会いたかったわ」と久々の再会を楽しんだ。

imimと歌う「見上げてごらん夜の星を」

各地で歌いながら旅するボーカルユニット「imim(イムイム)」の2人、KoheiさんとKenさんが歌の披露だけでなく、会場スタッフまでしてくれた。若い2人が、坂本九の名曲「見上げてごらん夜の星を」を一緒に合唱し、会場をわかせた。

毎回恒例のエンディングソング、森山良子の「今日の日はさようなら」を全員で合唱し、約2時間の会は終了した。

「歌声喫茶」がいまできること

前田さんは「災害以来、歌を歌えたことはなかった。
悲しいこと、辛いこと、これからの不安。
多くの人の優しさに触れ、日常という何気無いことへのありがたさを感じる。
歌を楽しみ、また明日へ」と振り返った。

「明日の日を夢みて、希望の道を」
(「今日の日はさようなら」歌詞引用)

この言葉が最後、心に残った。名残惜しくて会場を去れない人たちと後片付けをしていると、会場に新しい時計がかけてあることに気付いた。しっかりと1秒1秒前へ進む時計を見ていると、勇気をもらった。被災者たちが集い、前を向けるイベントは、今後も多くの人に勇気を与えてくれるだろう。

いまできること取材班
文章・撮影:小野直子 編集:松原龍之

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