取材班による現地レポート

地域コーディネーターと矢掛高校生の「だっぴ 」

2018.12.06

矢掛高校にいる被災した生徒と地域コーディネーター

倉敷市真備町から小田川を上流へ約10キロのところにある矢掛町は、今回の豪雨により約600棟が浸水被害にあった。井原鉄道・矢掛駅の近くにある岡山県立矢掛高等学校は、真備町から通う生徒も多く、全校生徒約400人の生徒のうち、82人が被災をした。同校には、地域と学校をつなげる地域コーディネーター・井辻美緒さんがいる。

井辻さんは、被災後すぐ「生徒たちがどんなところで、どんな風に過ごしているのか」を訪ねてまわった。学校は、安否確認をすることはできても、被災した82人の生徒の現住所や生活状況、心理状況は把握することはできない。真備町の避難所にいる生徒、親戚の家にいる生徒、アパートを賃貸して引っ越した生徒。東日本大震災や熊本地震でも中高生の支援活動を行ってきた「NPO法人カタリバ」のサポートと共に、一人一人にヒアリングをしていった。

会いに行くこと、気付くこと

避難所に暮らす生徒は、プライベートな場所はない。時に子どもを怒鳴る大人の声、喧嘩をする声が聞こえてくる。一方で避難所を出て、親戚の家に移った生徒は、安心できる場所があるだろうか。家族全員で一間で一緒に過ごす。介護を手伝うことになった生徒も中にはいた。テレビのチャンネルも、食事のタイミングも、お風呂のタイミングも、誰かに合わせて我慢をすることが当たり前の日々が続いていた。

友達と会うこともない。被災した自分の家に戻り、片付け・掃除をする。真夏の暑い中、疲れて帰宅しても、いつも同じようなパンやおにぎりが夕食。頂いている大切な食料だから、「飽きた」ということもできず、食べられなくなり痩せていった生徒もいた。

暑い夏を越え、手伝うことが少なくなってきた頃、今まで一生懸命になれていた部活にも行けず、遊びに行くこともできない。豪雨の日のことを夢に見たり、思い出したりする。考えないように押し殺していると、どうしてもイライラしてしまったり、眠れなくなったり、食べられなくなったり、苦しんでいる生徒を目の当たりにした。

9月・新学期が始まる

新学期が始まると井辻さんの心配は的中した。高校生は心の中を見せない。態度はいつも大人のようだった。大切なものを無くしてしまったこと、迫ってくる水の中で何時間も救助を待ったこと、家族とのこと、ありとあらゆることを胸の中に埋れていく。「今はそれどころじゃない。親はもっと大変だから。今は話せない、話しても無駄だ」そうやって感情は消されていった。被災していない生徒と一緒に過ごす学校生活。教師も正直どうしていいかわからないまま、時が過ぎようとしていた。

プログラム「だっぴ 」を

井辻さんは豪雨災害が起きた時、NPO法人「だっぴ」代表の柏原拓史さんに相談していた。「だっぴ」とは、高校生と大人が輪になって座り、同じお題に対してスケッチブックに答えを書き、教える・教わるの立場ではなくフラットな関係性の中、話をする場。 高校生は大人の話を間近で聞けて、自分のことを真っ直ぐに聞いてくれる。

 開催に向けて

井辻さんの心にも迷いはあった。「高校生が自分の話をすることや周りの人の反応で、傷ついてしまうのではないか」という不安と「どのタイミングでやるべきなのか」という迷いは、ある人の言葉で払拭された。

ある研修会で、東日本大震災を経験された宮城県女川第一中学校の元教師・佐藤敏郎さんにお会いした。井辻さんは不安や迷いを佐藤さんに打ち明けた。「正解はない。失敗だらけだ。間違えたら謝るしかない。みんなに良いということはなかなかできない。でも、それがやらないという理由にはならない」と。この言葉をもらった井辻さんは「だっぴ」のプログラムを信じて開催を決断した。

当日を迎えて

平日の昼間、53人の大人が矢掛に来てくれた。大人からは「力になれて嬉しい。声をかけてくれてありがとう」と声が返ってきた。入場する生徒たちは、何とも言えない警戒した仏頂面。生徒たちは、将来について少しだけ本音を話してくれた。目をキラキラさせて「話すのが楽しかった、いろんな人の話が聞けて良かった」と帰っていきました。

お話を伺った地域コーディネーターの井辻美緒さん

「だっぴ」をやってみて

生徒たちは、「新しい自分を発見する」、「知らなかった世界に触れる」、「いろんな人がいる」ということに興味津々な表情をしていた。普段は話せなかった災害時のことも、話している姿も見えた。なにより「話をしたことが楽しかった」と声を漏らしていた。
「被災した生徒たちにどんな支援が必要か、何ができるだろうか」が毎日の問いだった。「災害で気付く大切なものは、日常でも大切なもの」。被災していてもしていなくても、自分を表現し、さまざまな大人・生徒とコミュニケーションをとることは大切なこと。今日感じたことは、生徒と共に育んでいく。

 

いまできること取材班
文章:松原龍之
写真:NPO法人だっぴ  提供

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