取材班による現地レポート

アートが被災地でできること〜笑いと熱気につつまれた「天道炎」

2019.05.21

大型傀儡師集団・GIANT STEPSのパフォーマンス

巨大なあやつり人形が揺れる

「きゃー!妖怪だー!」

「あはは、逃げろー」

真備町内にある川辺小学校のグラウンドに、元気な子どもたちの声が響いた。魂をゆさぶるバンドの演奏。その中で、全長4メートルにものぼる巨大なガイコツのあやつり人形が練り歩く。会場は熱気と興奮に包まれる。逃げ回る子もいれば、一緒に踊り出す子もいる。ガイコツに触ろうとして近づき、やはり怖くなって逃げ出す子もいる。それを見て笑う子もいる。そんな子どもたちを見守りながら、歌い、リズムに身を委ねる大人たちがいた。

あやつり人形に手をのばす観客

4月5日、川辺小学校のグラウンドで、真備町地区の復興を願うイベント「天道炎/テントウエン」が開催された。倉敷市・岡山市在住の30・40代のメンバーが立ち上げた「真備町イメージアッププロジェクト」が主催。アーティストや飲食業を営むメンバーたちが、アートによる被災地支援を目指す。キックオフイベントとして4月5日、13時から21時までほぼ半日をかけて、多彩な催しを展開した。

被災地にアートを

「平成30年7月豪雨で、友人も被災しました。友人の中には、被災地にいち早く駆けつけ、復旧作業のボランティアを続けた人もいます。私は、現地には行けませんでした。『助けに行く人を助ける』役割を担おうと思い、何が必要かを毎日聞いて回り、服やタオル、食べ物、水、電池、長靴など、多くのものを揃えました。」

発起人の一人である能勢聖紅(のせ・せいこう)さんが話してくれた。能勢さんは、デコレーション(舞台装飾)アーティスト。国内外で活躍し、イベントのデコレーションだけでなく、アートディレクション、ライブペイントなども手がけてきた。能勢さんは今、被災地に必要なのは、娯楽やアートではないかと話す。

モニュメント「天道炎」の傍らでほほえむ能勢聖紅さん

「昨年の秋頃から、被災された方の疲れがたまり始め、笑うことが少ないな、と気にかかるようになりました。年明けからは、子どもたちの間でいじめが起きていることや、お母さんが子どもにつらく当たってしまうという話も耳にするようになりました。災害支援の現場では、始めは医師や看護師が必要で、半年後からはカウンセラーが必要になるという話もあります。アートのカウンセリング力で真備の人たちを支えられるかもしれないと気づいたんです。」

能勢さんはこの日、イベント名にもなっている「天道炎」の名を冠したモニュメントを制作した。使用したのは、真備の竹や笹、松など。高さ5メートルほどの大きな作品だ。「龍が天に向かって昇りはじめる姿にも見えるでしょう」と言って微笑む。日が沈み校庭が夜の闇に包まれると、この作品に火が灯され、ファイヤーアート集団「AbRabbi-油火-(アブラビ)」による迫力満点のパフォーマンスが繰り広げられた。

「AbRabbi-油火-(アブラビ)」によるファイヤーパフォーマンス

ふたたび描けるようになった絵

イラストレーターの氏峯麻里さんはこの日、ライブペインティングを披露した。氏峯さんは、真備町有井地区の自宅で被災。豪雨の当日はアトリエとしていた自宅2階に避難したが、それでも水は腰の高さまで迫っていた。無事救助されたものの、保管していた絵100点以上が水に浸かってしまった。「絵は紙だから…」氏峯さんはそう言うと、一瞬、ライブペインティングの手を止めた。

「私は今まで、絵を描くことしかしてこなかったのですよね。被災した直後は、現実感がなく、夢の中にいるような感覚で、泥をかき出していました。それが一区切りついた時、絵を描こうとしたのですが、こんな時に描いていていいのかという思いもよぎり、結局描けない日が続きました。」

軽自動車にライブペインティングを施す氏峯麻里さん

氏峯さんが、再びペンを持てるようになったのは、豪雨の日からおよそ3カ月が過ぎた頃。西日本豪雨のチャリティー展示に参加しないかという声がかかり、それをきっかけに徐々に描けるようになっていったという。災害の前と後とで、作風に変化はあったかと尋ねてみると、植物をモチーフにすることが増えたという。冠水し、砂や泥に覆われた真備町に、草や花が元気に芽吹いていく様子に、氏峯さんは元気をもらったと話す。この日のライブペインティングでも、空を羽ばたく鳥と、天に向かって勢いよく伸びていく植物が、繊細なタッチとカラフルな色使いで描かれた。

日本各地からアーティストが駆けつけた意味

出演アーティストは、兵庫県、岐阜県、愛知県など県外からの参加者も多かった。県外のアーティストを呼ぶ意味について、前出の能勢さんはこう語る。

「私は、全国にアーティスト仲間がいます。『真備町のイベントに来て』というと、『真備町って?』と意外な反応を見せたのです。2018年は全国で多くの災害がありました。『真備町』と聞いても、すぐにピンとこないのですね。岡山の人が、東北では今も仮設住宅で暮らす人がいることを、ほとんど知らないのと同じですよね。現状を少し話したら『ぜひ行きたい』と言ってくれました。全国で活躍するアーティストだからこそ、『真備町』に来て、知ってもらって、全国の人たちに伝えてほしいと思っています。」

ステージで笑顔を見せるjaaja・長谷川雄一さん(中央)

岐阜県を拠点にしているバンド「jaaja」のボーカル・長谷川雄一さんは、真備町を訪れるのは初めて。開演前に町の中を見て歩いた。人が戻った家もあるが、まだまだ再建していない家が多い。ステージから子どもたちに「怖かっただろ」と一言、災害についての言葉をかけた。

「祭りをすると、厄が落ちると昔から言われている。みんなでワーっと騒いで、歌って踊ることで、魂が解放される瞬間がある。祭りとロック、同じだよね。真備町でもできたらいいなと思ったんだ。」

ステージ後、長谷川さんはこう話した。

真備の竹を使った手作りのイベント通貨「チク」 これで子どもたちがジュースなどを「買う」ことができる。

住民が顔を合わせるきっかけに

会場となった川辺小学校は、校舎の2階まで浸水被害を受けた。未だ復旧していない。同校の児童は現在、近隣の小学校に設置されたプレハブ校舎で授業を受けている。同校によると、避難先などからバスで通う児童が95%にのぼる(2019年4月現在)。そんな中、一度他校へ転校した児童20名のうち、7名が川辺小学校へ戻ってきたという(同前)。

「同じ経験をした人だからこそ、分かり合えることがあるのではないか。今は離ればなれになってしまっていても、イベントをすることで住民たちが顔を合わせるきっかけになるのでは」というのが、発起人たちの思いだ。

日が沈むと、竹灯籠に火が灯された。

災害を風化させない。そのために、「真備町イメージアッププロジェクト」では、今後もアートの力を真備町で展開していく予定だ。

 

真備町イメージアッププロジェクト 発起人:大塚さやか、詩叶純子、能勢聖紅、橋本雅義、原亮章、三戸龍家(五十音順)

いまできること取材班
文章・撮影:黒部麻子
編集:松原龍之

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