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南阿蘇村へつながる橋の復旧と、再起にかける人々の思い

2018.01.24

世界最大級のカルデラである阿蘇外輪山の南側に位置する南阿蘇村は、うつくしい山々の景色から一変、地震で土砂崩れなどが生じ、大きな被害を受けた。なかでも衝撃だったのが、熊本市内と南阿蘇村を結ぶ主要ルートにかかる「阿蘇大橋」崩落のニュース。これにより、道路は完全に寸断。近隣にある2つの橋(阿蘇長陽大橋と戸下大橋)も通れなくなり、観光客が激減する要因ともなった。

写真奥が、「阿蘇大橋」があった場所。橋がなくなったこの場所は立ち入り禁止が続いている

震度7を2度にわたって記録したあの震災から、もうすぐ2年―。阿蘇大橋はいま、2020年度の開通を目指して復旧工事が進められている(現位置から下流にて架け変えの計画)。また、不通だった阿蘇長陽大橋と戸下大橋は応急復旧工事の末、昨年8月末に開通。おかげで村人たちの通勤や通学、通院の負担軽減、そして観光客の呼び戻しにも大きな期待が寄せられている。
少しずつ復旧が進んでいる南阿蘇で、復興をめざす地元の人の声を取材した。

昨年8月に長陽大橋ルート(写真)が開通したおかげで、熊本市内方面からのアクセスが改善

九州ではじめてできたペンション村が、存続の危機に!?

南阿蘇村河陽にある「南阿蘇メルヘン村」。ここは、九州ではじめてできたといわれるペンション村で、地震前まで6軒のペンションが軒を連ねていた。

地震で大きな被害を受けた南阿蘇メルヘン村一帯

出迎えてくれたのは、ペンション「クララ」のオーナー・田口栄治さん。広島出身の田口さんは、とあるテレビ番組で南阿蘇の景色を見て観光目的で訪れ、それからしばらくして、単身この村へ移り住んだそう。

ペンションクララの外観。一見、建物は問題なそうなのだが、裏へ回るとその被害の大きさを痛感させられた

壁ははがれ落ち、地震の10日前に完成したばかりだったウッドデッキも崩壊した痛々しい姿に

「最初はペンションをやる予定はなくて、別荘として購入しました。だけど、次第に一人の時間を持て余すようになって…。そんなとき観光協会の方の後押しもあって、引っ越しから半年後に朝食付きの格安ペンションの営業をスタートさせました」。

地震後の再開を目指しているペンションクララ

地震が発生したのは、引っ越しから丸一年が経ったころ。本震当時、ペンション村には宿泊客を含めて50人ほどがいたそうだ。夜なので周りの状況が分からず、後になってペンション村へと登ってくる道が崩落し、完全に孤立状態だったと知る。ケガ人がヘリコプターで緊急搬送されるなどし、残った人たちで野外で一夜を明かしたそうだが、その恐怖はどれほどのものだっただろう。

ペンション村へと続く斜面は土砂が崩れ、道がなくなっていた

周辺には、大量のがれきが残されたまま

6軒あったペンションは全壊。家を失い、職を失ってしまったペンションオーナーのほとんどが、ここでの再起を断念せざるを得ない状況のなか、以前と同じようにこの場所でペンションを再開したいと誓ったのが田口さんだった。

「雄大なロケーションを臨むこの場所が好きになって移住を決めて。だけど住んだのはたったの一年。ここを再開するという気持ちしかありません」。壊れた建物内の復旧工事は徐々に進んでいるものの、道路の整備、壊れた水タンクの修理など、まだまだ課題は山積みだ。

ペンション村の水タンク。壊れたまま、復旧のめどはたっていない

厳しい状況のなかでも、再開を願ってできることをコツコツ続けている田口さん。今後について尋ねると、「ここをたくさんの家族連れに楽しんでもらえる場所にしたい。ヤギやポニーと触れ合えるコーナーも新しく作る計画です」と明るい展望を話してくれた。

「自然災害はある意味、仕方がないこと。クララを再開させるという目標に向かってこれからも頑張ります」と田口さん

阿蘇大橋近くで長年親しまれてきた喫茶店

続いて訪れたのは、崩落した阿蘇大橋近くで平成元年から営業を続けている人気の食事処「茶庵とちのき」(南阿蘇村河陽4375-9)。昨年復旧した長陽大橋を眼下に臨み、地震から3か月ほどたったころにお店の営業を再開したそうだ。

「茶庵とちのき」の外観

熊本市内方面から長陽大橋ルートを通り、お店へ曲がる交差点。「とちのき営業中」の看板が目印

「前震では、食器が一枚割れただけの被害で済みました。だけど、本震のときはすさまじかったですね。山が崩れるけたたましい音は、今でもはっきりと耳に残っています。翌日、心配になってお店に来てみましたが、棚は吹き飛び、カップ類は全滅。ライフラインは完全にストップしました」と店長の阿南理恵さん。幸い建物は無事だったもののその後しばらく休業に。

地震当時の様子を話してくれた店長の阿南さん

ロケーション抜群の店内

「地域全体の被害が大きくて、休業に追い込まれたお店がたくさんありましたね。自分のお店だけ再開していいものか、ずいぶん迷いました」。そんな阿南さんの背中を押してくれたのが、地元の人々。再開を待ち望む声に励まされ、7月にお店を再開。常連客や工事関係の人たちの憩いの場になっているようだ。

名物の「自家製ビーフカレー」(830円)。スパイシーな味わいがクセになると評判

「ご来店お待ちしています!」と店長の阿南理恵さん(右)とスタッフの渡辺真由美さん

「長陽大橋が復旧していく姿をいつも楽しみに見ていました。24時間途切れることなく工事を続けてくれた関係者の方々には、本当に感謝しています。地震のあと、休業中のお店に泥棒がはいったり、阿蘇山の噴火や豪雨の影響があったりと、精神的に落ち込むことが多かったです。でもこうして再開したあとは、お客様が来てくれるだけでうれしくて…。いろんなことがありましたが、たくさんの方に復興へ向かってがんばる阿蘇を訪れていただきたいですね!」。

ペンション「クララ」の復活を目指し奮闘する田口さん。そして、阿蘇大橋の復旧を近くで見守りながら営業を続けている「とちのき」の阿南さん。二人とも南阿蘇が大好きな人たちだ。春の訪れはもうすぐ。植物が芽吹き始めるその頃には、もっと元気な南阿蘇の姿を見せてほしいと思う。

いまできること取材班
文章:稲積清子
撮影:長谷和仁

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