現地のいまを知る

「被災地と共に」プロスポーツチームの決意

2016.07.20

バスケットボールのプロチーム『熊本ヴォルターズ』。
「子どもたちに夢を与えるようなプロバスケットボールチームを熊本につくりたい」との想いから、2013年に誕生。所属するNBL(ナショナルバスケットボールリーグ、現在はB.LEAGUEへと移行)(※1)のシーズンも大詰めの頃、平成28年熊本地震が発生した。

チームを運営する『熊本バスケットボール株式会社』代表取締役・湯之上聡さんに、当時の状況を聞いた。
「チームは神奈川県へ遠征中でした。翌日の試合を控えていた14日、前震が発生。幸いにも選手やスタッフ、その家族も無事だったので、15日は試合を行いました。しかし、16日に本震が発生。NBLからは試合をしてほしいという要望をいただきましたが、私たちは試合をできるような状況ではなく、NBLがその日の試合の中止を決めました」。

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熊本地震発生からこれまでを振り返る湯之上聡さん

一方、熊本では前震発生時、益城町総合体育館でバスケットボール教室が行われていた。
「子どもたち5、6人が参加していましたが、すぐに外に避難させ、事なきを得ました。体育館の損傷は、メインアリーナのステージの天板が1、2枚落ちた程度だったと聞いています。その後、避難してきた地域住民の方々が体育館へ押し寄せ、メインアリーナへの入場を求めたそうですが、天井が落ちるかもしれないからと、体育館のスタッフは通路やロビーへ避難者を誘導したそうです。その後の本震でメインアリーナの天板は全て落ちてしまいましたから、体育館のスタッフの判断は、本当に素晴らしかったと思います」と、湯之上さんは当時の緊迫した状況を教えてくれた。

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本震直後の益城町総合体育館のメインアリーナ。天板がすべてはがれ落ちてしまっている

地震発生後、益城町総合体育館は地域の大規模避難所となった。『熊本ヴォルターズ』にとってはホームアリーナであり、メインの練習会場だった場所。活動拠点を失った状況で、湯之上さんたちが決意したのは、他の場所へ移ることではなく、益城町で支援活動を行うことだった。
「ホームタウンの益城町が大きな被害を受けていたので、試合どころではないと思いました。その現状をNBLに理解していただき、残り6試合の中止が決定。それから選手とスタッフで炊き出しや被災した家屋の片付けといった生活支援を自主的に行いつつ、避難所の子どもたちにバスケットボール教室を開催したり、避難所や被災した学校にバスケットゴールを貸し出したりと、プロバスケットボールチームならではの支援活動も行いました。バスケットボールで子どもたちを勇気づけ、夢を与え、地域を元気づける。私たちが思い描いてきたプロスポーツチームのあるべき姿を体現できたように思います」。湯之上さんをはじめチームのみんながその役割と意義を実感し、支援活動にさらに力を注いでいったという。

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選手、スタッフ、そして地域住民が一緒になって炊き出しを実施

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バスケットボールを通して子どもたちと交流する選手たち

と同時に、多くの課題も浮き彫りになってきた。練習ができないことへの不安、これから先のチームの見通し、そして最大の問題が資金不足である。これまでも潤沢とは言えなかったが、地震後は試合ができず、スポンサー企業も被災したために収入が途絶え、より悪化してしまったのだ。そんな中、手を差し伸べてくれたのが、所属するNBLと参入チーム、そしてたくさんのバスケットボールファンだった
「『千葉ジェッツ』は自費でTシャツを作ってくれて、その販売売上の全額を支援金として私たちに贈ってくださいました。また、他のチームも試合会場で募金活動をしていただき、ファンの皆様にたくさんの募金をしていただきました。本当にありがたいことです」。

また、湯之上さん自身も地元メディアに出演したり、『Yahoo!ネット募金』やクラウドファンディングを通して広く支援を呼びかけている。その際、チームの現状と課題、描く未来像も発信することを大切にしているという。
全国の方々が“いまできること”は、現状を知ることだと思います。今後も、どこで地震が起きるか分かりません。私たちの状況を知り、それを糧にしてもらえれば、迅速な対応ができたり、被害を最小限に抑えることできるかもしれません」。
だからこそ、湯之上さんは赤裸々に、チームの状態を発信し続けているのだ。

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2016年9月から開幕する新しいバスケットボールリーグ『B.LEAGUE(Bリーグ)』に、2部リーグから参入する『熊本ヴォルターズ』。「プロチームとして勝利にこだわり、1部リーグ昇格を目指します!」と湯之上さん

プロスポーツチームの存在理由は“強さ”だけではない。“地域を元気にする力”こそ、最も大事な要素なのではないだろうか。だからこそ、被災地からプロスポーツチームの火を消してはならない。そのためにも、まずは『熊本ヴォルターズ』のことを知っていただくことからお願いしたい。

これまでの活動や選手のリアルな想いに触れられる動画はこちら。

※1:2013年に発足した男子バスケットボールのトップリーグ。2015—2016年シーズンで幕を閉じ、2016年9月からは、プロリーグの『bjリーグ(日本プロバスケットボールリーグ)』との統合により、新しいバスケットボールリーグ『B.LEAGUE(Bリーグ)』が誕生する。

いまできること取材班
文章:高野正通
撮影:長谷和仁

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