現地のいまを知る

被災地・南阿蘇村をやさしく照らす、ホタル観賞ツアー

2016.06.17

阿蘇カルデラの南に位置する、南阿蘇村。旧久木野村・長陽村・白水村の3つの村が合併してできたこの村は、この度の熊本地震で、甚大な被害を受けた地域だ。なかでも、熊本市内から南阿蘇村へ入る道路や鉄道などの交通ルートが寸断(※1)されたことで、温泉や湧水地、レジャー施設など、観光資源の多い同村にとって、経済損失という点でも大きな致命傷となった。

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移動途中に目にした、道路が崩壊した場所。隣には、う回路がきちんと整備されていた

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山肌の茶色くなった部分が土砂崩れを起こした箇所。遠目からでもハッキリと確認できる

そんな南阿蘇村で、「観光客を呼び戻したい」と奮闘する人物がいると聞き、早速、村を訪ねた。向かったのは、南阿蘇村河陰にある、入請舛(いりうけます)憲市さん所有の水田。阿蘇五岳を一望できる見晴らしのいい場所にある田んぼでは、ちょうど田植えが終わったばかり。小さな稲が風にゆられ、気持ちよさそうにしているそばで、カエルやアメンボなどの生きものも、のびのび共存しており、この土地の豊かさを感じることができた。

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阿蘇五岳を望む水田で、取材に応えてくれた入請舛憲市さん

土を耕さず、冬場でも水を張る“不耕起栽培”に取り組む田んぼには、この時季、ホタルも姿を現すという。しかも、この地域で数十年ものあいだ姿を消し、絶滅したと思われていたヘイケボタルを見られるというのだ。昨年まで、コメの購入者や、近隣の住民へ声をかけ、ささやかな観賞会を開いていたそうだが、今年は、熊本地震で同村が大きな被害を受け、観光客が激減。「自分になにかできることはないか」と考えた末、村へ足を運んでもらう一つのきっかけになればと、「南阿蘇村ホタル観賞ツアー」と題したイベントを企画し、広く呼びかけることに。

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6年ほど前から、入請舛さんの田んぼに姿を現すようになったヘイケボタル(2016/6/5撮影)

もともと沖縄出身で、東京でIT関係の仕事に就いていた入請舛さん。南阿蘇村へ移住するきっかけは、俵山の展望台から見た雄大な景色に、一瞬にして心をうばわれたからだという。「50歳くらいになったら、生活環境を変えたいと思っていましたので、妻のふるさとである熊本で土地を探し、南阿蘇村へ移住することを決めました。農業をスタートしたのも、じつはこの村へ来てからなんですよ」。

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ヘイケボタルのエサとなる「サカマキガイ」を、田んぼのいたるところで発見!

農薬や化学肥料を一切使わず、田んぼも耕さない農業に取り組むようになって3年目のこと。環境にも、生き物にもやさしい、コメづくりのおかげからか、絶滅したと思われていたヘイケボタルが、田んぼの周りに集まるようになったという。近くの川ではゲンジボタルも生息しており、6月20日ごろまで幻想的なホタルの姿が楽しめるそうだ。とはいえ、ようやく復活したヘイケボタルの生態を守りたい思いもあり、事前予約で人数を制限し、田んぼの環境を荒らさないようにした上で、鑑賞会を行っている。

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ゲンジボタルよりも小型のヘイケボタル。田んぼのあぜに茂る草の上で静かに光を放つそうだ(2016/6/13撮影)

観賞会が行われるのは、街灯もない真っ暗な場所にある入請舛さん所有の水田。そこに浮かび上がるのは、ヘイケボタルとゲンジボタルの幻想的な明かりと、星空のきらめき。そして、川のせせらぎや虫の鳴き声など、自然界に存在する安らぎの音のみだ。「ボランティアにいらっしゃった方や、地震で被災された地元の方はもちろん、南阿蘇村へ観光に訪れる方へ、ぜひこの光景をみていただきたいですね」と入請舛さん。南阿蘇村の大自然が織りなす、雄大な景色とともに、復活したヘイケボタルの幻想的な明かりを見て、周辺の観光地へも足を延ばす―。きっとこれも、大きな支援につながるはずだ。

≪南阿蘇村ホタル観賞ツアーについて≫
ツアーに参加するには、事前予約が必要です。
◆雨の日以外、18時までに電話予約(先着20名まで)
→090-1194-0361(入請舛さん)
◆予約後、19時45分までに、指定された場所(県道28号沿い)へ集合
※観賞ツアーは、6月20日ごろまでの予定

※1:村への主要ルートだった国道57号沿いの阿蘇大橋、県道28号沿いの俵山トンネルが崩落、そして南阿蘇鉄道の路線が崩壊したことで、現在は、う回路を経由しなければ、村への立ち入りが困難となった。

いまできること取材班
文章:稲積清子
撮影:長谷和仁

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