現地のいまを知る

変わりゆく被災地。店舗兼住宅を再建した美容師の決意

2018.02.28

2017年11月、旧益城町役場跡地のすぐ北側に『美容室テンズ』がオープンした。店主の高橋栄児さんは、嬉しいだけではない複雑な想いを胸に、オープン後の営業を続けている

『美容室テンズ』店主の高橋栄児さん

ここには地震前まで、『おしゃれ館 高橋』があった。高橋栄児さんと奥さん、そして高橋さんのお母さんの3人で切り盛りしていた美容室だ。しかし、平成28年熊本地震により店舗兼住宅は全壊。高橋さんは別の仕事へ就く道と、他の美容室で働く道を考えていたという。そんな中で舞い込んできたのが、6月25日に益城町惣領地区に仮設商店街『益城復興市場・屋台村』ができるという話。高橋さんは運良く出店することができ、新しい場所で再起・復興のために汗を流していた(その時の取材の様子はこちら)。ちなみに、『益城復興市場・屋台村』は、被災した店舗が再出発するまでの足がかりにしてもらおうと開設された仮設店舗。スーパーマーケットの駐車場に張られた大型テントに、飲食店や日用品店、理美容店など18事業者が入居していた

2016年8月に『益城復興市場・屋台村』を取材した際に撮影した仮設店舗の様子

それから1年4カ月後の2017年10月、『益城復興市場・屋台村』は閉鎖の日を迎える。出店していた店は、別の場所で店を再建したり、閉店したり…、状況はさまざまだ。高橋さんは閉鎖前から着々と準備を進め、もともと店があった場所に『美容室テンズ』をオープンさせた。
店と住まいを再建できたのは、素直にうれしいですね。“待ってたよ”という常連客の声も、大きな励みに。地震前の日常を少しずつ取り戻している気がします」と微笑む高橋さん。一方で、久しぶりに戻ってきた地元で、地震後の環境の変化に戸惑いも覚えたという。
「引っ越しをされたり、仮設団地へ入居されたりと常連客の方々の生活拠点が変わったため、来店いだだけなくなったお客様もいます。また、『益城復興市場・屋台村』では新規のお客様にも来ていただいていましたが、車で10分ほどかかる距離に離れてしまいましたので、また来ていただけるかは分かりません」と不安を口にする。

そしてもうひとつ、高橋さんが気になっていたのは、自身の気持ちの変化である。
生活が少しずつ落ち着いてきて、私自身、『益城復興市場・屋台村』の頃の“がむしゃらさ”が無くなってきたように感じています。実は地震前までは、店外で営業活動をしたり、お客様と必要以上に会話することはほとんどなくて…。でも、『益城復興市場・屋台村』で同じように店舗を失った方々と協力し、刺激を受ける日々の中で成長し、店外で営業活動したり、いろんな方に声をかけたりと様々なことに取り組むことができていたんです。店を再建して、その頃の気持ちが薄れていることが怖いですね」。

災害からの復興は、「家や仕事場を再建できたら終わり」ではない。災害発生直後、避難所生活、仮設住宅での生活、恒久住居での生活など、それぞれのフェーズで課題が発生してくる。そして、課題は目に見えるものだけではなく、被災者の心の中にも確実に存在している。だからこそ、被災地の状況を知り、状況に合わせた「いまできること」を考え続けることが大切なのだ

ところで、高橋さんにはその後、モチベーションを高めてくれる出合いがあった。それは、熊本県制作の復興ドラマ『ともに すすむ サロン屋台村』。『益城復興市場・屋台村』の人々をモデルにした約20分のドラマで、高橋さんもモデルのひとりとなっている。
「今年1月に試写会がありました。ドラマの中には私が制作スタッフの方々に話したエピソードや言葉がたくさん散りばめられていて驚きました。当時の心境を思い出したことで、改めて前へ進む気持ち強く湧いてきました」と高橋さん。現在は『益城復興市場・屋台村』で書いてもらった応援メッセージを店内に貼ってパワーをもらいながら、前を向いて復興への歩みを進めている。

なお、復興ドラマは今後、東京での上映会や特設サイトでの公開を予定している。詳しくは後日の記事にて。

『益城復興市場・屋台村』でお客さんが書いてくれた応援メッセージが貼られている店内

いまできること取材班
文章・撮影:高野正通

現地のいまを知る